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「なりきり」にはミュージカルの経験が生きた

 原作があるのだから、その小説の主人公になりかわるのがいいというのは、よくわかる。ただ、それは「言うは易し、行うは難し」のような気も。感情移入しやすい・しにくいキャラクターもあるだろうし。

 

 すぐ主人公に入り込むなんて、そんなすぐにできるもの?

ikura たしかに簡単なことではないですけど……。ただわたし、もともとそういう「なりきり」が好きではあって。自分のライブで歌うときも、一曲ずつすべてなりきって歌うんです。何になりきるかって、その曲をつくったときの自分に憑依します。その曲をつくったときがきっと、表したい感情がいちばんピュアに出ているはずなので。 

 小学生のときミュージカルに出演したこともあって、演じて歌うことにある程度は慣れていました。ただ、なりきりやすい主人公とそうでない主人公というのは、もちろんあります。

 1曲目の『夜に駆ける』からして、歌詞が男性の視点で書かれていますから、どう演じようか考え込みました。わたしの本来の声は女性っぽいのに、男性になりきって歌わなくちゃいけない。ならば素の声が出ないよう、中性的な声色にしたほうがいい……ということを意識しました。

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 2曲目が配信されたとき、「これ同じ人の声なの?」という感想をいただくことが多くて、わたしにはそれがひそかにうれしかったです。なんとか演じきれたのかな? と思えたので。

©️iStock.com 

やるべきことは“音楽でより豊かな物語世界を生む”こと

 曲をつくるAyaseさんとしては、歌う側ができるだけ「演じやすい」ようにつくっているのだろうか?

Ayase 彼女が「なりきる」に主眼を置いて臨んでいるのはいいことだと思うけれど、僕自身はまた違うところにポイントを置いています。

 原作の作品世界をもとに、音楽でより豊かな物語世界を生むのが僕のやるべきこと。彼女の歌声は、そのための最重要のピースです。物語世界のイメージを最もよく表せる声色やリズムの取り方、歌い回しとはどういうものか。いつもあれこれ探りながら、ボーカル・ディレクションをしていますね。

 ふたりのそれぞれのこだわりが、うまく融合して作品ができていけばいいと思っています。