音の一つひとつが、物語をつくる要素になる
曲づくりについて、不思議に思うことがもうひとつ。原作の小説に比べて、歌詞というものはずっと短い。こんなにちょっぴりの言葉で、なぜ原作の物語世界を表せるのだろう?
Ayase ボーカルの声色やバックで鳴る音の一つひとつが、物語をつくる要素になって、言葉の少なさを補っているんでしょうね。
人は視覚情報や文字情報だけからじゃなく、音からもイメージを膨らませることができます。風が吹き抜けるような音が聞こえれば寒さを感じるし、鈴の音が鳴っていればクリスマスの時期かなと思う。楽曲の至るところに、そうした想像を膨らますことのできる音を入れ込んでいます。歌詞の意味、歌声の調子、バックのサウンド、それらすべての要素を総動員してシーンを表現しているんです。
ikura 一つひとつの音がいろんなことを表しているというのは、歌っていても強く感じますよ。たとえば『群青』という曲だと、「ポチャンッ」と水滴の音がいきなり入ってきて、けっこう驚かされるんです。
その音の近くに「渋谷の街に 朝が降る」という歌詞が入っていると、なんだか直感的にイメージが描けるじゃないですか。こういうことが音楽にはできるんだな! とハッとさせられます。
入口がたくさんあることが大事
ジャンルを横断してひとつの物語を築こうとするYOASOBIだからこそ、自分たちの柱である音楽にできることは何だろうかと、人一倍見据えているのかもしれない。おふたりの考える「音楽にできること」とは?
Ayase 小説、音楽、映像などなど、いろんなものが根っこの部分でつながりながら、大きな輪になっている……。それが僕の考えるYOASOBIの世界観です。
輪の中には、どこからでも入っていけるようにしたい。入口がたくさんあることが大事だから。
そのとき音楽というのは、いちばん身近で手軽な入口になり得ると思っています。