同じ漁法、同じ装備で、季節に応じて様々な魚種を確保できる点も定置網ならではのアドバンテージだろう(もちろん設備投資は大掛かりなものになるが)。
鹿渡島定置が大切にする「3つの感動」
さらに酒井氏は定置網の漁法としての長所について語ってくれた。
「まずなにより、他の漁法と比較しても抜群に鮮度のいい魚を出荷できることです。というのも、定置網ならば入った魚を一度にすべて水揚げせず網の中でストックしておくことができます。少しずつ必要な分だけ確保して丁寧に処理すれば、作業に追われることなく最良な状態で出荷することができるんです」
鹿渡島定置では魚の鮮度に強くこだわっているそうだ。
獲れた魚は一定の大きさがあれば神経じめと血抜きを施し、真水氷(溶け出した真水が魚を傷める原因になる)ではなく海氷シャーベットで速やかに冷やすなど船上作業から出荷まで工程の隅々に工夫が施されている。
そして彼らは特に魚を消費者へ届けるにあたって常に「3つの感動」を意識しているという。
「まず料理人が発泡スチロールの蓋を開け、美しい魚体と対面した際の感動です。我々は絶対に輸送・保管中の魚体を直に氷へ触れさせることをしません。そのために魚と氷の間にはメッシュ状のクッションを挟みこんだり、魚をサンマ袋(アルミを蒸着させた鮮魚用ラミネート袋)に包むといった梱包を施しています。こうすることで真水で身を痛めたり眼を濁らせることなく、綺麗なままの姿で料理人のもとへ届くのです」
「次にまな板の上で捌く際の感動。徹底して血抜き処理を行うため、魚の血液でまな板が汚れることもありません。そしてなにより、おいしい!という感動ですね。多くのこだわりはすべて、ひとえに味の良い魚をお客さんに楽しんでほしいという一点に集約されます」
持続可能な漁業の一型
獲れた魚の品質維持以外にも、定置網には大きなメリットがあるという。
「定置網は環境に優しい漁法であるという面もあります。まず、水揚げする魚を選択することができるのが強みです。混獲された魚の中から不要なもの、まだ小さな個体などはそのまま逃がすことができるため、資源保護の観点からも注目が集まっています」
「さらに定置網は一度設置してしまえば、細かなメンテナンスこそするものの半年や1年間はその場に置きっぱなしです。つまり一種の漁礁になる。魚たちの生活の場になる。漁業者らが行う種苗放流と併せて魚を育てる、という一面もあるんです」
さらに、定置網は江戸時代や室町時代から続く漁法でありながら、古くから基本的なシステムは変わっていない。