オコゼにアンコウ、フグ、ウナギ……。

 一見すると奇怪な見た目の魚ほど、意外や意外に美味である……。そういうケースは洋の東西を問わず決して珍しいことではない。「キモい」と言われがちな魚は得てして「美味い」のだ。

漁船へ乗り込んでの定置網漁見学は、一般の方も参加可能(※要予約、有料)

能登の隠れた秋の味覚「グンカン」

 ところで晩秋から冬にかけての日本海では知る人ぞ知る「キモうま」な魚が獲れるのだが……。

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 果たしてその巨体と異様さから、誰が呼んだかその名は「グンカン」。いざ行かん、日本海の大怪魚に舌鼓を打つ旅へ。

 訪れたのは石川県七尾市崎山地区。定置網が盛んなことで知られる漁師町である。観光客向けに定置網漁の乗船体験も開催している「株式会社鹿渡島定置」による協力のもと、網の引き上げ作業へ同行させていただいた。

 夜も明けきらぬ頃、定置網に到着。作業の傍らで網を覗き込むと、カマスやソウダガツオに混じって暗い海面にひときわ大きな魚影が青白く浮かんだ。

 

 漁火を浴びてパニックに陥り海中で8の字を描いて走る他魚たちとは対照的に、ゆったりと揺蕩うように泳ぐ影。威風堂々というべきか慢心しているというべきか。いずれにせよ、その佇まいから彼らこそが目的の「グンカン」であることは直感的に理解できた。

 魚にイカ、色とりどりの海の幸がひしめく海中へ大きなタモ網を差し入れる。するとそれは真っ先に、すんなりと網へと収まり甲板へ投げ出された。

 これが……能登の隠れた秋の味覚「グンカン」だ!

サワラやフクラギ(ブリの幼魚)といったほかの水揚げと見比べると、なんとも異様な姿の「グンカン」。しかし、これと似たような魚をどこかでみたような気も……

身包み剥がされる博徒みたいに

 魚料理に明るい読者の中には、もうその正体に勘付いた方もおられるだろう。「グンカン」は標準和名を「ウスバハギ」といい、そのおちょぼ口や小ぶりなヒレ、そしてザラついた体表から察せられるとおりカワハギ科に属す魚である。

 グンカンという名はあくまでここ石川県七尾周辺での地方名なのだ。

一見するとボリューミーな魚だが、上から見るとペラッペラ。だから「薄葉」ハギというわけだ

「今年もグンカンが多くなってきたね」

 獲れた魚を仕分けながら漁師がつぶやく。彼がグンカンという魚の名について詳しく語ってくれた。

「もともとこの地方(七尾市)ではカワハギの仲間のことを『バク』と呼ぶんです。料理の際に厚い皮をベロリと剥くんですが、そこを賭け事に負けて身包み剥がされる博徒に見立てているんです。

 こっちの方言でばくち打ちを指す『バクチコキ』が転じて『バク』なんですね。いわゆる普通のカワハギは単に『バク』と呼んだり、魚体の輪郭が角ばっていることから『カクバク』と呼んだりもします」