力任せにメリ! 独特な解体手順
観光客への朝食提供も行う調理場では日が明けぬうちから出刃を片手にお母さんたちが流れるように魚の解体を進めていく。
グンカンの解体手順は独特である。まず人間でいう後頭部のあたりから胸びれにかけて切り欠きを入れると、その前後をつかんで力任せにメリ、と裂き割る。
こうすることで可食部がほとんどない頭部と雑多の内臓を一気に外しつつ、最も重要な肝臓を無傷で取り出すことができるのだ。
そこからはカワハギ類ではおなじみ、手づかみで一気に外皮を剥ぐ工程……と思いきやそうはしない。まず厚く固い皮を残したまま三枚におろし、あらためて包丁で皮を引く。グンカンの外皮と身の間にはもう一枚、フイルムのように薄い皮膜が存在し、手による「皮剥ぎ」を行うとこれが必ず肉側に残る。
加熱調理する場合は気にならないのだが、生食する際にはこの薄皮が歯に当たる。そのため刺身や寿司だねに仕立てる場合は包丁を用いて外皮と薄皮をもろともに削ぐのである。
……トレーに並ぶうっすらと桃色を帯びた白身はそれだけで「美味くないはずがない」と確信させられる佇まいだ。
採れたてでありながら、賞味に値する味わい
やがて大皿へ盛られた刺身がテーブルへと運ばれてくる。折り重なった白身には盛りつけの豪快さに飲み込まれることのない気品が漂っている。
ワサビと醤油でいただくと、サックリした歯ざわりを追ってさっぱりとした、けれど決して淡白ではない旨味がやってくる。この手の白身魚は普通、水揚げ後にある程度の期間をかけ熟成させてから調理する。でなければ無味無臭なつまらぬ味に終わってしまうものなのだ。
しかしこの魚、グンカンは採れたてでありながら、すでに賞味に値する味わいを備えているのである。だが当然、やはりしっかりと水分を抜きながら冷蔵庫で寝かせれば、さらに美味さを増すというから末恐ろしい。
そしてここへ来て真打ちの登場。生のまま細かく叩かれた肝に醤油を垂らした「肝醤油」だ。いや肝の量が多すぎて肝醤油というより醤油をまぶした肝のタタキと表した方が正確かもしれない。
美しい白身もさることながら、ウスバハギの真価はこの肝にこそあると言っていい。
鹿渡島定置では漁獲した魚は船上にて徹底して活締め、血抜きが施される。そのため、身肉より数段デリケートで傷みやすい肝臓も安心して賞味できるのだ。
刺身で肝醤油をたっぷりと包み取り、頬張る。