「この肝醤油、白いご飯にぶっかけたらどうなるんだろう……」
厳しい日本海の冬に耐え、次代に命を繋ぐべく蓄えられた濃厚な脂肪の甘みとアミノ酸の旨み。
それらが白身に絡まり……せせらぎのように澄んだ美味さが一転、川面に紅葉を散らしたように華やかな旨味に彩られ……。なんというかこう……。とにかく濃厚でおいしい! バカうま!
魚類にはエネルギー源としての脂肪を筋肉に蓄えるものと内臓、特に肝臓へ蓄えるものとがあるのだが、ウスバハギは典型的な後者といえる。その特性がこの魚をすぐれて「“キモ”うまい」食材たらしめているのだ(決して魚自体のビジュアルがキモいと言っているのではない)。
しかしカワハギの類でありながら、たった一尾からこれほど良質な肝がこれほど多量に確保できるとは……。おそるべし、グンカン。
と、ここでふと魔が差した。
「この肝醤油、白いご飯にぶっかけたらどうなるんだろう……」
どうなるもこうなるも、およその未来は視えている。不味いはずがない。気づいた時には左手に「肝かけごはん」の茶碗が乗っていた。ザッ、と掻き込む。
クゥ~!と顔をしかめる、ビールの宣伝でよく見かけるあのわざとらしい表情が自然に出た。
思わずつぶったまぶたの裏に、チラチラと閃光の散るがごとき美味さ。強いて例えるなら卵かけごはんのあの味に近いのだが、はるかに濃厚で豊潤。臭みや雑味は一切ない。
うーん。まるで大砲のように豪快で真っ直ぐな味わいにすっかり白旗を上げてしまった。日本海の怪魚「グンカン」は、その体内に備えた美味さの戦力もまさに「軍艦級」であったのだ。
グンカンのみならず、秋冬はアオリイカにブリ、サワラにマダラと美味な魚介がここ能登の海に集結する季節である。読者のみなさまも、海の幸を求めて七尾市は崎山へ足を運んでみてはいかがだろうか。
鹿渡島定置の乗船体験に参加すれば、水揚げの様子を見学した後に朝食として獲れたての海の幸を賞味することもできるので、ぜひともオススメしておきたい。運とタイミング次第ではグンカンも口にできるだろう。
さて次回はこの鹿渡島定置の乗船体験について、より詳細なレポートをお送りするのでどうぞお楽しみに!
取材協力=崎山半島渚泊推進協議会
写真=深野未季/文藝春秋、平坂寛