正月が近づくと値段が安くなる理由
「そうしたカワハギ類の中でもウスバハギは特に、軍艦を思わせるほど大型になることから『グンカンバク』、縮めて単に『グンカン』と呼ばれるようになったんです」
バクにグンカン。実に面白い由来である。が、この命名が意外な形で彼らの値を落とすことがあるという。
「バクもグンカンバクもこれから正月が近づくと値段が安くなってしまうんです。『名前の縁起が悪い』ということで避けられる」
と笑うのは鹿渡島定置の操業を取り仕切る酒井秀信社長。これらの異名が七尾でかなり古くから呼び習わされ、定着していることを示すエピソードである。さらに酒井氏はグンカンことウスバハギの市場価値についても話してくれた。
「地元でも安定した人気のある魚で、わりと高めの価格で取引されます。時期にもよりますが小売でキロあたり2000円くらいでしょうか。身は柔らかで上品ながら、しっかりと旨味を備えた白身でどんな料理にも合います。しかしなんといっても腹一杯に詰まった大きく味のよい肝が人気の秘密です」
一尾一尾が蓄えるその肝の大きさは無類
高級魚として扱われる同族のカワハギと比べればややお手頃だが、決して安い魚ではない。なお、少々水気が多くカワハギとは身質が異なるが、味そのものが大きく劣るわけではない。何よりカワハギ科としては日本最大級の種であるゆえ、一尾一尾が蓄えるその肝の大きさは無類である。
「実は最近では関東圏や関西圏の都市部でも密かに人気を集めており、地産地消には終わらず豊洲市場をはじめ各地に出荷されています。
おすすめの調理法は定番の刺身や天ぷら。それから昆布しめも美味しいですし、皮を剥いだものを丸揚げにして中華風の餡掛けにするのもいいですよ。また脂が少なく真っ白な身は、万人受けする食べやすさから病院食に使用されることもあります」
……もうインタビューの回答に唾を飲み込みっぱなしである。これは辛抱たまらない。さっそく漁港に併設された調理場で獲れたてのグンカンを刺身で振る舞ってもらうこととなった。