大漁!!
20分も走ると、急に船速が緩んだ。
海上を見渡すと、たくさんの黄色いブイが並んでいる。定置網の位置を知らせるものだ。
小型の僚船もやってきて、ついに操業が始まる。船上灯が点くと、海の男たちの顔つきが精悍さを増しているのが分かった。
2艘の船で連携しつつ、網を少しずつ絞っていく。巨大な網へ迷い込んだ魚たちを先端部の「箱網」へと追い集めるのだ。十数名の漁師全員がフル稼働で網を手繰り寄せる。
やがて、水面に無数の魚影が走りはじめた。十分に網が絞られ、いよいよ収獲の時を迎えたのだ。
直径がひと抱え以上もある大きなタモ網を密集した魚群に突っ込み、次々と獲物を掬い上げていく。
カマス、フクラギ(ブリの若魚)、サワラ、ソウダガツオ、カワハギにアオリイカ……。変わり種としてはエイの姿もある!
多種多様な魚たちが甲板で跳ねる。魚屋の店頭に丸のまま並ぶような見慣れた魚種ではあるが、やはり生きた姿は美しく、迫力に満ちている。
食卓に乗る魚たちがどこからどのようにやってくるのか、食材の本来と発端を見られるこうした現場は子供たちへの食育の場としても有用だろう。
ジンベエザメやナガスクジラも入る
ところでバリエーションに富んだ魚種に興奮していると、意外な言葉が聞こえてきた。
「せっかくみなさんに乗ってもらったんですが、今日はかなり水揚げが少ないですね。普段の5分の1くらいかもしれません」
残念そうに話してくれたのは株式会社鹿渡島定置の代表・酒井秀信氏。
素人目には種数も量もかなりのものと映るのだが、これで不漁とはおそるべし。
また、酒井氏は「大物が入らなかった」という点についても悔しがっていたようだった。
そう、定置網の特性として、巡り合わせ次第では極端に大型の魚ですら採捕できてしまうのだ。
「夏場はカジキ類がよく入ります。他にもサメやマンボウなんかが入ることもありますよ。ウミガメやイトマキエイ(マンタの仲間)も入ります」
たしかに、そんな巨大生物が登場すれば船上は大盛り上がりだろう。運が良ければそんな現実ばなれした光景を見ることができるのだ。今回は運に恵まれなかったが、これは魅力的である。
「ジンベエザメが入って、飼育展示用にのとじま水族館が引き取って行ったこともありましたね。ちなみに一番大きかった生物はおよそ12メートルもあるナガスクジラでした」
ナガスクジラ!!
……つくづくすさまじい世界なのだなぁ。だがもちろん、漁の目玉は大物ばかりではない。むしろ、安定して獲れる四季折々の中型魚こそがこの海の至宝と言えよう。
まさに今、秋にはカマスとアオリイカが二大巨頭として網を賑わせているが、これから冬に入ると寒ブリやタラ、ヤリイカなどがまとまって獲れるようになる。
そして水温の上がりはじめる春にはメバル、コノシロが、初夏にはアジ、盛夏にはタチウオやトビウオ……という具合である。いずれ劣らぬ日本海の美味ばかりだ。