このサイバーハラスメントは被害者に女性が多く、さらに別のマイノリティの属性が加わるとさらに被害に遭いやすくなる、とシトロンは述べている。「一つだけはっきりしていることをいえば、女性の方がサイバーハラスメントを受けるリスクが高いこと、そしてレズビアン、トランスジェンダー、あるいはバイセクシュアル、非白人の女性においてはそうしたリスクがさらに高くなるということである」(*2)。社会活動をやっていると、男性である僕には送られてこない誹謗中傷が女性アクティビストのもとには送られてくるということはすでに述べた。インターネット空間も、男性と比して女性にとって安全ではないのが現状だ。
被害者に忍耐を求める通念
そして、サイバーハラスメントをさらに悪化させる原因は、社会や警察がきちんとした対応をしてくれないことにある。シトロンの本ではこれでもかというほど、きちんと対応してくれない例が載っている。日本の事例を思い返してみてもそうだ。「気にしなければいい」(どうして自分に対する脅迫や嘘を無視できるのか。自分が無視できたとしても第三者はネット上の嘘や誹謗中傷に影響を受けてしまうだろう)や、「ネットをやらなければいい」(このご時世にネットが使えなければどれだけ不便なことか。職業によってはネットが使えないことが致命的になってしまう)という愚論から、被害者に対して「お前が悪いんじゃないの」(ここまで来ると話にならないだろう。どうして脅迫や嘘の被害を受ける方がダメ出しされなければならないのか)という暴論まで出てきてしまう。近年、ネット上の誹謗中傷によって死に追いやられてしまった著名人も出てきてしまっている中(*3)、サイバーハラスメントに関する法律的な取り締まり強化ももちろんだが、社会通念の変革も必要だろう。
【参考文献】
*1 HUFFPOST,2019/03/28,「『性教育の手引』改訂。しかし高校生向けでも『性交』には言及せず。都教委が発表」(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5c9c30fce4b08c450cd109e4)
*2 Danielle Keats Citron, 2014, Hate Crimes in Cyberspace(= 2020,明戸隆浩,唐澤貴洋,原田學植監訳,大川紀男訳,『サイバーハラスメント――現実へと溢れ出すヘイトクライム』明石書店)
*3 NHK,2020/06/04,「木村花さんの死が問いかけるもの」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200604/k10012457591000.html)