選択や決定ではなく「自殺するしかない」という思い込み
判例では「自殺とは、自殺者の自由な意思決定に基づいて自己の死の結果を生ぜしめるもの」(1989年3月24日、福岡高裁)とされている。法律論としてはわかりやすいが、自殺直前の心理は、自由な意思決定を正当化できるほどの状態なのだろうか。
自殺を試みる人たちは、心理的視野狭窄が生じているとも言われている。つまりは、自由な意思決定というよりは、自殺を選択せざるを得ないという切迫した心理状態なのだ。選択や決定ではなく、「それしかないという思い込み」がある。それを前提とすれば、生か死かの揺れ動きの中で、死に向かう行動をせざるを得ない心の動きがあることになる。
裁判官の「Aさんが書いていたパソコンの日記ですが、8月18日、21日に『死にたい』と書かれていました。内容の確認はしましたか?」との質問に、白石被告は「失踪宣告書を書くようにやりとりはした。そのときは、私以外の人と自殺をするとお願いをした。私の存在を薄くするようにお願いしたのです。内容については見ていません」などと答えている。内容を把握していないことが事実なら、失踪宣告書の「自殺しません」はダミーだとしても、日記で書いていたように、「終わりにしたい」気持ちがあったのかもしれない。
「苦痛があっても力任せに、殺してください」
揺れ動く心理は、3人目に殺害されたCさん(当時20、男性)にもあったようだ。Cさんと白石被告が知り合ったのは2017年8月13日。AさんがCさんのLINEのQRコードを白石被告に送ったときからだ。8月15日、AさんとCさん、白石被告の3人で会っている。このとき、白石被告は、自殺を手伝う方法として、Aさんに柔道の締め技をかけ、Cさんはそれを見ていた。このときは死ぬのをやめたため、3人は解散した。
弁護側によると、Cさんの自殺願望の理由は、(1)小学生のときに高機能自閉症と診断され、相手の気持ちを汲み取れない悩みがあった、(2)仕事が2年目でプレッシャーがあった。バンド活動もしていたが、リーダーは厳しく、叱られるのが辛く、精神的に不安定だった、(3)恋人との別れ――。そんな中で白石被告と出会っている。
そして、バンドリーダーからライブ映像の編集に絡んで叱責があった後、8月28日、再び、白石被告に「お久しぶりです。先日は失敗して申し訳ありませんでした。また、お願いできませんか?」とのLINEのメッセージを送っている。このとき、Cさんの自殺願望が高まったことになる。「苦痛があっても力任せに、Aさんにやった方法で殺してください。寝落ちしたところでしてください」というメッセージだった。