被害者たちは「本当に」死にたかったのか――。

 2017年10月、神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった事件で、強盗や強制性交等殺人などの罪に問われている白石隆浩被告(30)の裁判員裁判(矢野直邦裁判長)は12月15日、判決を迎える。

白石隆浩被告 ©文藝春秋

 筆者が裁判を傍聴する中で、もっとも気になった言葉が「本当に死にたかったのか」というものだ。裁判で明らかになった事実などを振り返りながら、改めて考えてみたいと思う。ただし、この稿では、白石被告本人の意図は考慮しない。

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日記には「殺されてもいいから終わりにしたい」

 そもそも「死にたい」という感情に「本当」と「本当じゃない」が存在するのかどうか。あるいは、Twitterで「死にたい」とつぶやくこと、そのつぶやきに対するダイレクトメール(DM)に返事をすること、返事をしたとして白石被告に会いに行くこと、会いに行ったとして死のうとすること、死のうとしたとして途中で止める可能性……は、どこまで一体なのか。

 筆者は、「自殺系サイト」に投稿をする人たち、「ネット心中」の志願者、TwitterなどのSNSで「死にたい」とつぶやく人たちを取材してきた経験から、実際の自殺に至るまでには、いくつもの“壁”があると感じている。

 被害者9人すべて、どこかのタイミングで自殺に対する気持ちを表明し、何人かはTwitterで「#自殺募集」などの文言を投稿していた。その意味では、被害者全員が、濃淡の差はあるだろうが、自殺願望があったと言えるのだろう。例えば、1人目のAさん(当時21、女性)はTwitterで自殺に関する投稿をして、それを読んだ白石被告がDMを送った。そのことをきっかけにカカオトークでのやりとりが始まった。

白石被告が使用していたTwitterアカウント

 弁護側によると、Aさんは、中学時代のいじめ、恋愛などで悩んでいた。2016年8月、ネットで知り合った女性と「ネット心中」をしようと、江ノ島の海で入水自殺を図ったことがあった。しかし、Aさんだけが助かった。その後も入退院を繰り返し、入院中も首吊りを試みて、看護師に止められている。

 その1年後の2017年8月上旬、Aさんは死にたい気持ちが強まり、少なくともTwitterで「ネット心中」を呼びかけるくらいの自殺願望があった。そして、DMやカカオトークでやりとりをしていた白石被告のもとを訪ねる。その際、Aさんは白石被告の指示で「失踪宣告書」を書き、自宅に置いている。そこには、「絶対に自殺をしません」と書いてあった。ただ、日記には「殺されてもいいから終わりにしたい」と綴っていた。