朝ドラこと連続テレビ小説『おちょやん』(2020年度後期)の出だしに勢いがない。
杉咲花主演による、大阪で演劇をはじめ名脇役となった浪花千栄子をモデルにした俳優一代記、第1話の世帯視聴率は18.8%で、2017年の有村架純主演『ひよっこ』の19.5%から3年ぶりに20%を切った。
『ひよっこ』は、スタートの状況に反して後半、ぐんぐん勢いを増していき、続編もつくられ、名作との誉も高い。そのため一概にスタートでは判断ができない。だが、『おちょやん』は、『ひよっこ』の19.5%よりも低い18.8%で、少し気がかりだ。
本役・杉咲でない子役時代は様子見されてしまいがちで、本当の勝負は、杉咲が活躍する第3週以降である。そもそも、芸道ものは通過ぎて一般向けでないとか、コロナ禍でドラマどころではないということもある。主人公が継母に家を追い出される展開が昔話ならいざしらず、いま新たに制作されるドラマで見るのはしんどい。……そのあたりの幾多の事情を加味してもなお、他の追随を許さない朝ドラの、近過去にない危機感を思わせる18%台への落ち込みは、なぜか。
その理由はずばり、NHKが朝ドラの「視聴習慣」をキープできなくなってきていることにありそうだ。
日本人の「ルーティーン」となった朝ドラ
人気の要因を、関係者に聞くと、必ず上がってくるのは「視聴習慣」というワードである。いまふうにいえば「ルーティーン」。朝起きて、見る、1日のはじまりに欠かせない「モーニングルーティーン」に成り得たことこそ、朝ドラの最大の強みなのである。
朝ドラは、1961年から来年2021年で60年間、毎朝ほぼ同じ時間に放送し続けて、『おちょやん』で103作め。来る日も来る日も休まず、新作を半年ごとに制作し続け、途切れさせなかったことで、毎朝、8時台に、チャンネルをNHKにして見る行為をルーティーン化した。
朝ドラ人気が話題になるようになったのはここ10年ほど。2010年に、朝8時15分から8時ちょうど開始に時間帯を変更してからだ。ネットが発達して、朝ドラを話題にすることが増えた。
朝ドラとは女の半生を描いたドラマ。時代を映し出す鏡。朝見て、元気になれる。朝ドラはおもしろい。朝ドラを見ていれば他者との話題に困らない――という安心と信頼のブランド化が、ネットで拡散され、ルーティーンの強度を高めている。
視聴率の低さは『エール』の影響か?
それゆえ、これまでの傾向として、前作の満足度が高いとそのまま次回作の視聴率も高くなり、前作の評判がいまひとつだと次回作の視聴率は元気がない。視聴者の期待したブランドイメージから離れるとたちまち視聴者が離れる。
その定義でいえば、『おちょやん』の視聴率の低さは『エール』に原因があるといえる。ネットニュースを連日賑わせていたわりには期間平均が20.1%と、作品として評判が地味だった『わろてんか』(17年度後期)と同じなのである。