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2020/12/11

『エール』はライトな若者層に受けたものの……

『エール』の場合は、過去作と同じことをやれない事情もあるだろう。そこで『あまちゃん』で評判のよかった歌や笑いを劇中に取り入れる方式を採ったり、昨今のドラマの潮流(メタ化、単純化、エピソードの短縮化)にも寄り添ったりして、キャラクターを確立した、短いエピソードをつなげていくオムニバス――いわば「サザエさん」方式にして、若い世代を取り込んだ。その結果、『エール』はライトな若者層に受けた。

 一方、古関裕而の楽曲の力で、高齢層の関心も確保していた。が、いくら“モデル”であって古関当人の話ではないとあらかじめ断ってあっても、史実とドラマが違い過ぎることに対する賛否両論も生んだ。古関裕而の研究書を出した辻田真佐憲氏が、毎日のようにネットニュースで史実を提示し、それは物議を醸したが、同時にドラマの宣伝になったことだろう。

NHK放送センター(東京都渋谷区) ©iStock.com

 史実との違い、山崎育三郎や吉原光夫などの生粋のミュージカル俳優が出て歌を披露する面白さ、等々、そういう部分が目立った反面、物語の内容が評価される機会は少なかった。そこは歌舞伎俳優の顔芸とアドリブで押し切って、人気を博した『半沢直樹』と似ている。

余韻に浸る間もなく“歌合戦”

 芝居のうまい窪田正孝、二階堂ふみが主人公夫婦を演じたことで、繊細な感情も、コミカルな部分も楽しめた。最後は、二人三脚で歩んできたふたりが、妻の死に際、ふたりの人生を回顧するという美しいエンディングがすばらしかったが、それを最終回にしないで、歌合戦をトリにした。これはこれでたいへんおもしろい取り組みではあるが、半年間かけて描かれた登場人物たちの人生をしみじみ味わう余韻にいささか欠けた。

 ひとりの人物の長きにわたる人生の物語を描く朝ドラでは、いろいろな出来事があって、途中ドタバタもしたけれど、最後はしっとり終わって、気持ちを鎮めるというだいたいの流れがある。

二階堂ふみ ©getty

 それが、『エール』では、病に臥せった妻・音(二階堂ふみ)が見た夢のような場面のあと、俳優・二階堂として笑顔で挨拶し、その翌日、他の演者たちが着飾ってコンサートで盛り上げると、逆に『エール』おもしろかったーっという想いが再燃してしまった。土日明け、すぐに新作『おちょやん』で、なんだか気持ちの切り替えができない人もいたと思う。