松本人志氏 ©文藝春秋

速水 今回は松本人志をめぐる問題について。

おぐら 『ワイドナショー』(フジテレビ)のコメンテーターに就任して以降、番組内での発言がしょっちゅうネットニュースになってますね。

速水 最近だと、共謀罪に対するコメントと、日野皓正の往復ビンタ問題。

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おぐら 共謀罪については、『ワイドナショー』で「僕はもう、正直言うと、いいんじゃないかなと思ってるんですけどね」「やっぱり冤罪も多少はそういうこともあるのかもしれないですけど、未然に防ぐことの方が、プラスの方が多いような気もするし」と。

速水 これはちょっとアレンジすれば叩かれない中身になる。「テロを未然に防ぐ必要はある。だけど、そのために冤罪を生んではだめ」だったらまったく問題ない。でもコメントとしては無難すぎる。「多少あるかも」という言い回しは、少し過激さを出してみたんだろうね。

おぐら 無難なことは言いたくないし、求められてもいない、という。ただ、番組を見ていた印象としては、少しためらいながら言葉を発していたので、本心だったのかなとは思います。

速水 けど、本当に過激なところに踏み込めるわけでもない。この場合だと「国民の権利なんて制限して当然」とまでは言わないわけだから。

おぐら これを受けて、『週刊金曜日』が表紙と巻頭で「松本人志と共謀罪」という特集を組みました。

速水 一応目を通したけど、うーん……おもしろくなかった。

おぐら 特集のリードには「松本人志の変節と、共謀罪の成立を許した私たちの社会」と書いてあります。

速水 だけど別に共謀罪の議論に踏み込むわけでも、松本人志論に踏み込むわけでもなく、かつての番組プロデューサーやなんかが出てきて、昔はこんなじゃなかったみたいな。本人を呼んできて、どういう意図の発言だったか聞けばよかったのに。

おぐら ここ何年か、チャップリンやモンティ・パイソンを引き合いに出して「日本の芸人はなぜ権力の批判をしないんだ」っていう議論がありますけど、単純にビジネスにならないからっていうのも一因だと思うんです。「音楽に政治を持ち込むな」論争でも明らかになったように、一定数の日本人が政治的なネタを歓迎しないというマーケットの問題。実際、現政権や権力を批判するネタをやっている芸人もいますけど、アンダーグラウンドな活動の域を出ない。要は売れないってことです。

速水 「日本のお笑いはオワコン」と言った茂木健一郎が『週刊金曜日』の特集で書いていたのは、日本のお笑いは「空気読み」の一等賞を決める競争だっていう論。まあ、その指摘は正しい。それを踏まえて言うと、政治家の政局もまさに空気読みでしょ。いかに時流に乗るかという能力が問われる。

山尾志桜里議員 ©文藝春秋

おぐら 弁護士との不倫疑惑をスクープされて民進党に離党届を提出した山尾志桜里議員も、その前に「保育園落ちた日本死ね」のブログを国会で取り上げたことで時流に乗った人でした。

速水 お笑い芸人が社会問題に対して発言をするのは、まさに空気を読んで時流に乗っているからだろうね。ちなみに、ワイドショーコメンテーターも同じ。

おぐら コメンテーターといえば、宇野常寛さんが『スッキリ!!』(日本テレビ)のコメンテーターを降板するとツイッターで明かしました。

※ 編集部注:宇野氏は、日中戦争中の南京事件に否定的な本を置いていたアパホテルについて、今年1月放送の『スッキリ!!』で「歴史修正主義だ」と批判し、「日本テレビに街宣車が押し寄せ」たことを番組側が問題視したのではないかとして、「『スッキリ!』クビになりました」とツイート(8月31日付)。YouTubeでも動画を投稿して「僕は事実上のクビだと解釈しています」などと語りました。

速水 宇野くんは空気を読まない希有なコメンテーターだったと思うよ。あのスタイルが制作側と衝突して降ろされてしまうというのはわかる。それが傍目で納得できるかどうかは別として。

おぐら もはやワイドショーのコメントは、いかに万人が納得する解釈を披露できるかを競うゲームみたいになってますよね。

速水 ワイドショーにも事件の説明過程があって、そこまでの流れをぶった切るコメントをするのは勇気が要るんだよ。局側に何かを無理に言わされるということはないんだけど、そもそもそれをテレビが伝える意味とかに口を出し始めると、コメンテーター自身の存在意義って何?ってなりかねないし。

おぐら そんな『スッキリ!!』の日本テレビで、『いつかボクらもご意見番 コメンテーター予備校』というバラエティ特番がはじまったんですよ。お題のニュースに対する芸能人たちのコメントを、一般の人たちがジャッジするという……。

速水 それを番組にしちゃったんだ。

おぐら 公式HPの紹介では「どんどん肥えていく視聴者たちのコメンテーターを見る目」「『どんなコメントが求められているのか…?』『こんなコト言ったら炎上しちゃうかな…?』」「視聴者を『なるほど』と唸らせるコメント力を学ぶ」と書いてあります。

速水 テレビ局がコメンテーターに何を求めているのか、よく分かるね。

おぐら それに、9月21日放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日)が「コメンテーターやりたい芸人」だったんです。つまりコメンテーターは、いま旬のネタとして扱われるような存在になっていて、そのぶん世間から厳しい目を向けられているっていうことですよね。