『東京の夫婦』(松尾スズキ 著)

「大人計画」の主宰者として、また映画やドラマで俳優として大活躍する松尾スズキさん。3年前、20歳年下の一般女性と2度目の結婚をした。

「『GINZA』(女性ファッション誌)で、何かコラムを書いてくれと頼まれたときに、おしゃれな雑誌だし、当時代官山に住んでいたので、ここでのふたりの生活を題材にしようと思いました。代官山って僕の大好きなラーメン屋もないようなキザな街だから。東京では地方から人が出てきて、東京の人になる。出会うはずのない人が出会い、家族を作る。自分たちも含めて、『東京の夫婦』というのはそういうものです。今までの著作の中でも、かなり文章を練り上げて、読みやすさを追求しました。生活自体は大したことではないことが多いので、何を書くか毎日考えています。読ませるものにしたいと」

 好きなお笑い芸人の話から、子どもを持たない決断、家族との断絶といった深い話まで。コミカルなだけじゃない、私小説的な文体だ。

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「愛情は、婚姻で永遠を約束することではありません。愛を持続させるためには怠慢であってはならないことを知っているのが、2度結婚した強みです」

 前の結婚のときにはやってこなかった「記念日を祝う」ことを実行する松尾さん。結婚記念日にバラを100本用意し、妻を泣かせ、1週間の休みにはハワイへ。かわいげのある年寄りになるために松尾さんはがんばる。

まつおすずき/1962年、福岡県生まれ。作家、演出家、俳優。97年『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で岸田國士戯曲賞受賞。2001年『キレイ―神様と待ち合わせした女―』でゴールデンアロー賞受賞。06年と10年には小説が芥川賞にノミネートされる。

「年をとることはつらいです。やりたいことが多すぎて、死ぬまでにとても追いつかない。限界が区切られていくので、剥がれ落ちるものに対してもがき続けています。物覚えの問題もあるし。でも、彼女がいるからだいぶ手間を短縮できる。セリフ覚えを手伝ってくれるので、台詞の多い役を受けられるようになりました」

 20年前の著書の中で、松尾さんは、会社を辞め演劇の道で生きることを決めたとき、運転免許を川に捨てたと書いている。劇団員を含め一筋縄ではいかない個性派がまわりを固めているだろう松尾さんのもとに、普通運転免許を持ち、福祉の大学で介護の実習経験も積み、過去に銀行員だった彼女がやってきた。

「夫婦になって生きやすくなりました。ないものを補い合うのが結婚というシステム。何で結婚するか? という考えが、昔は欠落していました。好きであれば何でもいいじゃないかと。今は、ないものを求めてくれるほうが、愛より安心できます」

『東京の夫婦』
2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」(著者曰く)と再婚した松尾スズキ氏が、そのふたりの生活を綴った。諧謔的で赤裸々な描写に笑いつつも、ときに本質をつかれる。「今の社会に漂う閉塞感や歪み」に共感させられる。雑誌『GINZA』での連載は現在も続いている。

東京の夫婦

松尾スズキ(著)

マガジンハウス
2017年8月10日 発売

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