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 対照的に、菅はますます勢いづいていた。同じ30日に収録したCS-TBSの番組では、秋の解散・総選挙の可能性について「総理の専権事項だから私が申し上げるべきではないと思うが」と前置きしつつ、「コロナ問題がこのような状況の中ではなかなか難しいのではないか」と語った。解散先送りは菅の持論とはいえ、安倍の専権事項に踏み込むのは、菅としては珍しいことだ。これまで安倍の影の役割に徹してきた姿とは一線を画す、明らかな変化の兆しだった。

経済回復か感染抑制か

 7月末、国内での新型コロナの感染は第2波のピークを迎えようとしていた。新規感染者は29日が1260人、30日は1305人、31日には1579人と、3日連続で過去最多を更新した。31日の東京の感染者数は、前日を96人上回る463人に跳ね上がった。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は31日の会合で、感染状況を(1)感染ゼロ散発(2)感染漸増(3)感染急増(4)感染爆発──の4段階に分け、段階移行時の指標を作る方針を表明した。分科会長の尾身茂は記者会見で「感染爆発段階になってから緊急事態宣言を出しても遅い。緊急事態宣言を出すのであれば、この前に予兆を見つけて行う。悪くなる前に対応することが感染症対策、危機管理の要諦だ」と語った。

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 指標づくりは西村が持ちかけ、尾身も快諾した。しかし、西村はコロナ対策にとかく前のめりで、官邸への根回しは不十分だった。話を聞いた今井は「総理の選択肢の幅を狭める」と真っ向から反対した。数値に縛られれば、政治判断の余地を失うことを恐れた。菅も指標には冷ややかで、「見てるのは重症者とベッドの数」と素っ気なかった。厚労省の集計では、新型コロナの全国の入院患者は29日時点で4034人。確保している病床数の20%に過ぎなかった。西村があわてて指標づくりにストップをかけようとしても、作業に入っていた尾身らは「それはもう無理な話です」と取り合おうとしなかったという。西村は指標に幅を持たせることで、官邸の了承を何とか取り付けた。独断で先走りしがちな西村の悪い癖が出た。