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経済回復を優先し続けた菅義偉

 8月1日、官邸で開かれた連絡会議では、厚労相の加藤が新たなデータを示した。7月27日時点の「東京都全陽性者分析の結果」と題する文書で、緊急事態宣言の解除前と後で比べると、陽性診断の届け出受理から療養終了までの日数が18.6日から6.4日と大幅に改善していた。データ公開を求める出席者に、加藤が「東京都のデータだから国が勝手に出せない」と渋ると、菅は「出してください」とすごんだ。新型コロナを過度に恐れる必要はないと国民に知らしめるためだった。

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 第1波をはるかに上回る新規感染者が出ても、官邸は緊急事態宣言を再び発令する気はなかった。そもそも第1波と第2波では、深刻度が全く異なるとの見立てだった。安倍はこの日、周辺に「経済は止められないよ。そもそも、重症者は減っている。重症者と死者の数字。これで見なければダメだ。感染者数を追っても意味ないんだから、そこは世の中も認識を変えてもらわないと」といら立ちを見せた。再発令すれば、経済が打撃を受けるだけではない。感染封じ込めの失敗を公式に認めることになり、政権批判は手が付けられなくなる。

「Go To トラベル」へのこだわり

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 政府内では、経済回復を優先する菅と、感染抑制に軸足を置く西村のスタンスの違いが表面化した。菅は2日のNHK番組で「感染防止策と社会経済活動の両立をしていかなければ、国民生活そのものが立ちゆかなくなってしまう」と訴えた。観光業界で働く約900万人は「まさに瀕死の状態」だとして、「Go To トラベル」の活用を国民に呼びかけた。一方の西村は同じ日の記者会見で「県をまたぐ移動は国として一律に控えてくださいと言っているわけではない」と前置きした上で、お盆期間中の帰省についてこう語った。「無症状の若い人あるいは子どもから、お年寄りに感染が広がる可能性もある。実家に帰るとなるとお年寄り、高齢者のおじいちゃん、おばあちゃんがおられるケースがあるので、慎重に考えないといけないんじゃないか」。菅との温度差は歴然としていた。