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ついに一斉停止 菅首相はなぜここまで「Go To」にこだわったのか

『喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書』より #2

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 日本歴代最長となった安倍政権からバトンを引き継いだ菅義偉首相。所信表明で「新型コロナウイルスの爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜くとしたうえで、経済を回復させる」と発言したように、“経済”へのこだわりは強いように見受けられる。なかでも肝入りの政策といえば「Go To」キャンペーンだろう。新型コロナウイルス感染症対策分科会からの再三にわたる「Go To トラブル」要請をはねのけ続けたことも記憶に新しい。なぜ菅首相は「Go To」にこだわり続けるのか。

 菅義偉本人、関係者の生々しい肉声を丹念に積み重ねた読売新聞政治部によるノンフィクション『喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書』を引用し、首相交代劇の裏側、そして、菅首相のゆずれない考えを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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「菅さんは目力が強くなった」

「Go Toトラベル」は7月22日に始まった。曲折を経ながらも菅の主張通りに事業が実現し、菅は官邸内での発言力を完全に取り戻したとみられた。自民党幹部は「今井らに任せたら失敗が続いたので、総理が官房長官に乗り換え、頼りにするようになった」と解説した。

 自信をつけたせいか、菅は新聞のインタビューやテレビ番組への出演を増やしていった。ポスト安倍への意欲については相変わらず慎重な言いぶりに徹した。18日に読売新聞がインタビューした際も「まったく考えていない」「官房長官として総理をしっかり支えてやるべき政策を少しでも実現したい」と述べるにとどめた。

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 一方で、政権の屋台骨としての強烈な自負心をのぞかせることもあった。19日のフジテレビの番組で官房長官続投について問われると、「安倍政権、やはり私、作った一人ですから、そこは責任を持っていきたい」と言い切った。菅との不仲が取りざたされた今井も「『Go To』で批判され、菅さんは目力が強くなった。賛否両論なんだから、あれはあれで強いリーダーという感じは出る」と認めた。

「菅総理には菅官房長官がいない」

 安倍も、菅をポスト安倍の有力候補とみていることを公言した。7月2日に行われた月刊誌「Hanada」のインタビューで、菅のことを「有力な候補者の一人であることは間違いないと思います」と答えた。安倍はインタビュー後、「ただ、菅総理には菅官房長官がいないという問題がありますが」と発言した。本人としてはオフレコのつもりだった。発売前のゲラをチェックした際にオフレコ部分まで載っていることが分かると、両手で髪をかき上げた。安倍が不機嫌な際にする仕草だった。ポスト安倍としての菅を疑問視していると取られかねないだけに、気にしたようだ。