「あなたに会うことが、中国に対する強いメッセージになる」
河野 で、ホワイトハウスに直行しました。予定の時間からトータルで2時間ぐらい遅れたのかな。でも、待っててくれまして。しかもそのときのバイデンさんは、確かご長男を亡くした直後なんですよ。それもあって、握手して終わりかなとも思ったんですが、いや、座れと。対面のテーブルで、私と佐々江(賢一郎)大使、バイデン副大統領とその補佐官の4人かな。そこからは滔々と日米同盟の重要性、日米関係はどうあるべきか、云々ですよ。それでね、私の記憶に間違いがなければ、バイデンさんはこう言ったんです。「私があなたに会うことが、中国に対する強いメッセージになるんだ」と。
――では河野さんとしては、バイデンさんは見識のしっかりされている方だなという印象ですか。
河野 私はそう思いました。少なくとも日米同盟に関しては。
――現在の保守論壇では、バイデンさんは日米関係にとっては良くない、トランプ時代のほうが良かったんだという意見が強いようにも見えるんですが。
河野 あくまで私の個人的体験ですけどね。でも、日米同盟がどうでもよければ、別にキャンセルしたっていいじゃないですか。
――バイデンさんはかなり日米同盟を重視されていると?
河野 そう思います。
後輩の自衛官たちへ“贈る言葉”
――最後に、後輩の自衛官たちに対して、ひと言いただければと思います。今後は、河野さんが経験されたような不遇の時代は知らずに、国民に支持された自衛隊しか知らない方々が入ってくることになると思いますが。
河野 そうですね。これは離任の辞でも申し上げましたが、やっぱり本当に厳しい時代があったんですよ。それを絶対忘れちゃいけませんね。この30年にわたる、ペルシャ湾を皮切りにした積み重ねの上に、先輩たちが培ってきた歴史の上に、「国民の9割が支持」という数字はあると思っていまして。それは元をただせば、国民にとって顔がわかる自衛隊員でなければならないということなんです。国民と自衛隊の距離が縮まれば、絶対に信頼していただけると思うので。
そして、ここまで自衛隊が歩んできた道は、絶対に間違っていなかった。だからこの道を、自信を持って進んでもらいたい。ただし、「築城十年落城一日」という言葉があるように、営々と積み上げられた信頼も、一瞬にして崩れ去ることがあります。そこは心して前に進んでほしいということを、離任の辞では申し上げました。まさに、それが後輩に残したい言葉ですね。
写真=末永裕樹/文藝春秋