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前自衛隊トップが目撃した“バイデン氏の対中戦略”「5年前、ホワイトハウスで言われたのは…」

前統合幕僚長・河野克俊さんインタビュー #2

2020/12/26
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河野 私の人生を変えた本は、防大(防衛大学校)時代に読んだ『坂の上の雲』です。これは明確に言えます。ただ、そうした本はやっぱり自分で見つけてもらわんとダメですよね。私は『坂の上の雲』でしたが、他の人もそうかといったら、違いますよね。

――ちなみに『坂の上の雲』については、乃木大将に対するネガティブな評価だけは司馬遼太郎さんに同意しないと、本に書かれていますね。

聞き手・辻田真佐憲さん

河野 同意しない。確かに戦術はあれだったかもしれないけど、乃木大将のために死んでいく人がそれだけいたというのは、すごい統率力、人間力ですよね。最期は自刃したことについても、司馬さんはグロテスクだと言っているんですが、それは言いすぎだと思うし、あの方の一途な生き方というのは決して否定すべきじゃないと思います。

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三島由紀夫の「最期の演説」をどう評価する?

――自刃といいますと、三島由紀夫も今年でちょうど死後50年になります。三島の本もほとんど読破されたと書かれていますね。

河野 しました。好きですよ、三島由紀夫。

――三島というと最期の演説で、自衛隊と憲法の関係のみならず、天皇の重要性についても言及していました。そうした主張についてはどう思われますか。

河野 まず、あの行動には賛成しません。明らかにね、あれは行き過ぎだと思うんです。でも、あの方がバルコニーで言っていたことは、私の憲法観に合っているんですよ。私は国のあり方の問題として、自衛隊と憲法について議論すべきだと思っています。どこの国でも軍というのは国家の中心なんですよ。でも日本では、その位置づけがいまだに定まっていない。憲法違反とも言われているこの状態のままでいいのか、ということなんです。

 

 つまりこれは国家のあり方、国家の骨組み、国家のかたち……それこそ司馬遼太郎でいえば「国のかたち」の話なんですよね。やっぱり今のかたちはおかしいですよ。それで、三島さんの話に戻ると、あの方は「天皇」と言われましたね。天皇を中心とした歴史文化、美的感覚云々の日本を取り戻せ、そのためには憲法だと。その真意は私と一緒だと思う。ようは、国のかたちをちゃんと整えるために、憲法を改正する必要があるんじゃないかと、こういうことなんですよ。

天皇と自衛隊の“あるべき距離”

――三島は国のかたちを「国体」と言っていて、その中心部分には天皇が存在すると考えていました。三島の死から50年が経った今でも、天皇と自衛隊との間にはやはり距離があるのかなという気がしています。それは今後、もっと密接になったほうがいいというお考えですか。

河野 そうなると危険じゃないか、と言う人が多いのではないかと思います。でも、それならイギリスは危険な国なのか、ということです。イギリス王室と軍の関係は密接ですよね。男子は必ず軍に入ります。今のウィリアム王子は軍服を着て結婚式を挙げていますし、チャールズ皇太子は陸海空元帥です。でも、だからといってイギリスは危険な国ではないですよね。オランダだって、スウェーデンだってそうですし。

 

――河野さんとしては、もっとイギリスやオランダ、スウェーデンのような関係になったほうがいいとお考えですか。

河野 なったほうがいいというか、なって悪くはないでしょ、ということですね。