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有料会員600万人 デジタルシフトに成功したNYタイムズと、凋落する日本の新聞社の“違い”

2020/12/22

デジタルへの移行が成功しつつある数少ない新聞社

 ところが、ここに電子版の有料購読者獲得に大きく成功している新聞社がある。1851年に創業されたニューヨークタイムズ(以下、NYT)だ。同紙は米国を代表する高級紙だが、発行部数はピーク時でも110万部と日本の全国紙に比べると規模が小さな地方紙であった。知名度では日本の全国紙に劣らないものの、発行部数と地方紙というアナロジーでいけば東京新聞といったところだろうか(東京新聞の朝刊発行部数は44万部、NYTの発行部数は80万部)。そもそも米国の新聞社は、1982年に創刊されたUSA Today のような全国紙もあるが、基本的にはワシントンポスト、ボストングローブ、サンフランシスコクロニクルといった地方紙が中心である。これはそれだけ国土が広いという事情もある。

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 その小さな地方紙の一つであるNYTが、日本の全国紙が足元にも及ばない有料電子版会員数466万千人(2020年9月末時点)を獲得しているというから驚きだ。日本で最も成功している日本経済新聞社の6倍の数字である。また2020年第2四半期には、電子版の売上高(購読料と広告収入)が紙の売上高(購読料と広告収入)を初めて抜いている。筆者が知る限り、紙からデジタルへの移行が成功しつつある数少ない新聞社だ。

NYTはなぜ電子版を増やせたのか

 ではなぜほとんどの新聞社が果たせていない電子版での成功を一地方紙であるNYTが成し遂げられたのだか。その理由は、他紙では読めない独自記事を連発したことにある。NYTはこの強みを強化すべく、記者を1,550人(2019年4月時点)から1,700人(2020年4月時点)と1年間で150人も増やしている。

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 少し脇道にそれるが、東京都大田区に玉子屋という宅配弁当会社がある。当日の朝に電話またはFAXで注文を受け(現在はネット注文もあり)、東京23区・川崎・横浜にある会社に昼の12時までに弁当を配達する。日々65,000食もの弁当を作り、当日の注文受付にもかかわらず、弁当廃棄率は0.1%未満というから驚きだ。遠方の顧客への配達は注文を受けてから配達車が出発したのでは間に合わないから、午前8時には予測した弁当を積んで出発する。注文受付は当日9時からなので、予測と異なる場合は現地で積み替えて調整するという離れ業を行う。この奇跡的なオペレーションについてはほとんど知られていないが、NYTはその玉子屋を取り上げたのである(2013.02.13)。曰く「ハイテク日本で、いまだFAXのオペレーションが残っている……」といったタイトルだ。いま思うとこれもNYTの情報収集力を知らしめるものであった。