話を戻すと、NYTは2年後の2017年、明確に「紙と広告中心のビジネスモデルからの決別」をあらためて宣言している。NYTの変革は、100万人という数字に満足することはなかったのだ。

 日本の全国紙は、新聞紙を家庭に配達する強力な物流ネットワークを持つという強みが弱みに変わるので、電子版へとビジネスモデル転換しようにもできにくい。この事情は新聞業界に限らない。これまで成功してきた企業ほど、デジタル中心に会社全体を変革することは困難なのである。

NYTは今後どこへ向かうのか

 さてNYTは今後どこへ向かうのであろうか。大きく二つの方向がある。

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1.動画を使った情報発信
2.潜在購読者層の地理的拡大

 いずれもすでに実行中である。

 動画は紙の新聞ではできなかったことだ。デジタルで初めて可能になった。潜在購読者層拡大も同様だ。紙では困難であった地理的制約の撤廃と英語圏の潜在読者層の存在を掛け合わせることによって、欧州などの海外購読者層を一気に広げる可能性が出てきた。地方紙から全国紙を飛ばしてグローバル紙に駆け上がる攻めの変革である。

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 同社はデジタル関連の有料会員数が9月には600万人(スマホアプリ等の会員含む)を超えたと発表しているが、その数値に決して満足していない。なぜなら購読者の対象が5億人と広がったからである。分母が5億人であれば、購読者が1000万人になったとしても2%にすぎない。満足している暇はないのである。まさにこの発想の転換こそが「デジタル中心に組み換える」ということの意味なのだ。

 この戦略を推し進めるべく、月額$17という電子版の購読料をこの1年間に限って$8と半額キャンペーンをはっている。さらに米国外の読者には一年間に限って月額$2という破格の価格で誘っている。このキャンペーンが効果をあげるかどうかは、購読者がリピートするかどうかにかかってくるが、そこで武器となるのが冒頭に述べた“独自スクープ”なのである。NYTの成功は、デジタル化を恐れることなくジャーナリズムの基本に戻ることの大切さと、攻めの姿勢の大切さを教えてくれる。まさにデジタル中心に会社全体を組み替えた様子が伝わる。

 紙の購読者数と広告収入は相変わらず減少している。電子版を大幅に伸ばしたNYTといえども、決して楽観できない。デジタル化の変革はまだ始まったばかりなのだ。