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「『固くなった』と言って照れまじりに…」“昭和レトロ”な色街「赤線」に通った男たちが書き残したリアル〈文豪から高倉健まで〉

「赤線本」渡辺豪さんインタビュー #1

2021/01/03
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 売春は「貧しさ」ゆえにやっているわけだから「貧しい」という社会問題を先に解決しなければいけないはずです。法の施行によって、自分たちはより弱い立場に追い込まれてしまうことをセックスワーカーたちは訴えていたわけですけれど、それは議員たちの耳には入らず、「売春を見えなくする」という策しかとられなかった。

 当時のデータによれば売春防止法施行で職を失った女性のうち8割近くが別の水商売についたといいます。転業後の追跡はできないので正確な数字はわかりませんが、なかにはキャバレーなどを舞台にしてまた売春した女性もいたでしょう。そうやって結局は地下にもぐっていくわけです。

©文藝春秋

コロナ禍にあぶり出された「性風俗業の人々」への意識

――今に通底する問題です。

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渡辺 売春防止法で売春が禁じられて社会問題が解決したか、といったら全くそんなことはない。世の中が豊かになるにしたがって少しずつ少しずつ隠れて見えなくなっているだけなんですよね。なくしてしまえば物事が解決したと勘違いしてしまうようなところはまさにそうですね。今回のコロナ禍での助成金をめぐって、厚生労働省が一時、性風俗業で働く人たちを対象外としましたよね。そういうところにわたしたちが持つ差別意識があぶり出されている。

©文藝春秋

 この本の最後に収録した「洲崎の女」を書いた芝木好子さんは女流作家です。そして一貫して「売春防止法が施行されて終わる問題ではない」という視点で作品を書いている。ほかの男性作家は、売春防止法施行で「悲喜こもごもあった赤線という空間がなくなってしまった」と過去を懐かしむ論調が多いわけですけれど、芝木さんは「まだ終わっていないんだ」とみる。芝木さんを本の最後にもってきたのには、そういう理由もあるんです。

赤線本

渡辺 豪

イースト・プレス

2020年11月15日 発売

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