「売春している人というと、自分とかけ離れた世界に住んでいる人だと勝手に線を引いてしまいがちです。でも、実際に当事者たちに話を聞くと全くそうではなくて、自分たちと地続きの世界に住んでいるんだということがよく分かる。それが面白いし、強く心を動かされるんですよ」
戦後の12年間だけ存在した売春を目的とした特殊飲食店街。いわゆる「赤線」にまつわる作品を集めた異色のアンソロジー「赤線本」(イースト・プレス)を監修した遊廓家、渡辺豪さん(43)はそう語る。
もともと東京都内のITベンチャー企業に勤務していた渡辺さんは、遊廓の磁力にひかれ、全国に点在する500箇所の遊廓や赤線跡を取材してきた。そんな趣味が高じて2014年には「脱サラ」し遊廓関連本の復刻を主に行う出版社「カストリ出版」を創業。遊廓の流れをくむ東京・吉原に2016年に開いた遊廓専門書店「カストリ書房」は今、連日多くの女性客でにぎわう。
そんな渡辺さんへのインタビューは、女性と性風俗の関係、さらには風俗産業の今昔をめぐる話へと広がっていった。(全2回の後編/前編を読む)
お客さんの8割は女性
〈かつて吉原遊廓を囲むようにして張り巡らされ、樋口一葉の名作「たけくらべ」にも登場する、お歯黒どぶ。その際のあたりに渡辺さんが営む遊廓専門の書店「カストリ書房」はある。「カストリ」とカタカナで記された白地の暖簾をくぐると、渡辺さん自らが復刻した遊廓や風俗に関する貴重な本の数々、そして多種多彩な遊廓グッズに出迎えられる。戦後発刊された希少な雑誌など約4000点もの資料を並べた有料の資料室もある。約12坪とこぢんまりした構えだが、さながら遊廓に関する「一大アーカイブ」の観がある〉
――遊廓に興味を持ち始めたきっかけから教えてください。
渡辺 遊廓が好きになったのは会社員だった2010年ころです。旅行好きで全国各地をぶらぶらしていたんですけれど、その旅先でちょっと横道にそれてみると、よくスナックが4、5軒並ぶ一角があるんですよね。駅や中心街からも遠いこんな場所になんでスナック街があるのだろう?と。疑問に思って調べてみると、そこが昔の遊廓や赤線跡だったことが分かる。なんだか、街の中に古い記憶が残されている感覚が面白かったんですね。こういうジャンルは調べている人が少ないので自分が調べたことが新しい発見にもつながったりして、やりがいを感じたんです。