男性客は建物や制度といった建前的なものに興味を持つのに対して、女性客は「そこで働いていた女性の気持ちについて書かれた本が読みたい」という方が多い。動機が内面的なんですよね。ある女性客の方に言われてすごく腹に落ちた言葉があります。「『なんで女性がこういうものに興味があるのか?』って質問が間違っていて、女性だから興味をもつんですよ」というんですよ。確かに自分と同じ性別の人が何十年前にこういう仕事をしていたということに興味を持つのは、ある意味当たり前なことですよね。
今、自分の仕事が何十年先も安定していて定年退職まで勤め上げられるなんて信じている人は少ない。1年後、2年後にでも食い扶持がなくなるかもしれない。それで「何かしよう」と思ったとき、その一つに性風俗で働くという考えがよぎる人もいるはずです。そうやって性風俗って何だろう?ってことを考え始めたとき、この店にある本を手に取りたくなるという事情があるのかもしれない。「ただ分からないから知りたい」というふうに。
――性風俗というものにも、あまり暗いイメージは抱いていない?
渡辺 以前、安野モヨコさんの漫画を原作とした映画「さくらん」が人気を集めたように、遊女にあこがれる女性は一定数いますよね。たとえば五社英雄監督の映画「肉体の門」(1988年公開)で娼婦を演じたかたせ梨乃さんの姿を見て、「かっこいい」と感じた女性も多いと思うんです。裸一貫で、体を売ろうが何をしようが、自分の力だけで生きていく。そんなたくましさがある。
女性は自分の体を自由に扱えてこなかった歴史があります。結婚のような制度もまさにそうだし、セックスでも「ベッドのなかでこうあるべきだ」と言われたりしてきた。売春そのものが良いとか悪いとかいうのではなく、セックスが気持ちいいとか気持ち良くないとかいう問題でもない。ただ、誰のものでもない自分のものである体の自由を行使することへのあこがれ、みたいな気持ちがあるんじゃないかとも思うのです。
「社長」「秘書」から「メイド」「女子高生」へ
――書店を構える吉原は日本で最も有名とされるソープランド街。その街並みを間近で見られていて何か感じることはありますか。
渡辺 さびれてきているなという印象はあります。ソープランドというのは下火になっている性風俗産業で、今、主流なのはデリヘル(デリバリーヘルス)なんですね。デリヘルの経営者の方にインタビューしたときに「デリヘルとソープは何が違うんですか?」と聞いたことがあります。