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 すると、その方は「デリヘルは要するにヨコの関係性なんだ」と言うんです。男性と女性が最寄り駅で待ち合わせて手をつないでホテルに入っていく。これは彼女とやっていることと変わらない、つまり「ヨコの関係」ですよね。でも、ソープでは、よく女性が三つ指ついてかしずいて……といわれるように、サービスする側の女性とされる側の男性がはっきりした「タテの関係」になっている。こういう発想は高度成長期的な男の上昇志向を反映していて、「自分は上り詰めてやるんだ」というギラギラしたものも感じる。

 でも今の若い男性たちに「女性にかしずかれてセックスしたい」人はほとんどいないと思うんです。かつてのソープの店名には「社長」「秘書」といった言葉が使われたりしたんですけれど、今は「メイドなんたら」とか「女子高生なんたら」というふうな名前を掲げる店が増えています。

©文藝春秋

 デリヘルというのはマンションの一室で看板も掲げずにやっているケースが多い。だから数十年後に昔の地図をひっくり返してみても、かつての遊廓や赤線のように「デリヘルの分布はこうだった」ということが分からない。今は、売春を数でカウントしづらい時代になっているともいえます。それに今は、SNSの発達で、売春産業が産業の体をなさなくなっている時代でもある。スマホでアプリを使えば、異性に出会えて個人売春が当たり前にできるといえばできるわけですから。

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セックス、お金。強い欲望から生まれた遊廓の美しさ

――そういう現状があるなか、渡辺さんが遊廓や売春の歴史に強くひかれるのはなぜでしょう?

渡辺 どのようなアートでもカルチャーでも何でも、その根源にある動機が強ければ強いほど心に迫ってくると思うんです。「いい女とセックスしたい」とか「お金がほしい」という欲望って、ものすごく根源的で強い人間の欲望ですよね。そこから生まれてきたものの一つが遊廓なわけで、それに心動かされないことのほうがおかしいというくらいの美しさがある。

©文藝春秋

 今後は遊廓の建物が一軒ほしいなとも思っています。やっぱり実物を見た印象って圧倒的に心を衝き動かすんですよ。戦後の貧しい時代につくられた赤線の建物って部材が貧弱だったりするので軽んじられがちなんです。ただ、手に入れるとなると東京ではお金がかかって難しい。地方都市のほうが可能性あるかなあ、とも思います。地方のほうが建物もまだ結構残っていますしね。

赤線本

渡辺 豪

イースト・プレス

2020年11月15日 発売

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