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女性は命がけで「貞操」を守るべき…今も生き続ける“強姦神話”

 当時、少女の場合には「処女膜の損傷」が、大人の場合には精液の付着や性病への感染などが「強姦」の証拠として必要とされ、こうした証拠がない場合には、「暴行の痕跡」が認められなければならなかった。

『法医学上より観たる色情犯罪』(1919年/大正8年)を著した性科学者の澤田順次郎は、「女子のその貞操を保護する念力は甚だ強きが故に、陵辱等の襲撃に対しては、死力を出して之れに抵抗するに依り、真に陵辱せられたる場合には、陵辱に特殊なる痕跡を印せざることは、決して之れ無きなり」と説いている。

 こうした見解が一般的だったため、「暴行の痕跡」がない場合には「強姦」とは認められなかったのである。現在でも、女性は命がけで「貞操」を守るべきで、抵抗しなかった場合には「強姦」とは認められないという、いわゆる「強姦神話」が根強く生き続けている。

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 また、小酒井も『近代犯罪研究』のなかで、「ヒステリーの女子が誣告罪を犯すこと、即ち強姦されたとか、傷つけられたとかいって虚偽の訴えをなすのは周知のことである」と説いていたことから、「強姦」被害者に法医学的証拠が認められない場合には、「ヒステリー患者」として片づけられていた可能性もある。

「虚偽の強姦」が殊更に強調された背景には、かなりの「強姦」の暗数があったと推測できる。しかし、被害者が思い切って訴え出ても、まずは「虚偽」を前提に女性の心身の状態、つまり「ヒステリー」や月経が問題視されたのだ。

 大正時代に犯罪学者たちが唱えた「女は嘘つき」説は、その後も継承されたため、どれほど多くの性暴力が隠蔽され、女性たちが悔し涙を流してきたか知れない。

 もちろん、性被害について嘘をつく女性が絶対にいないとは言い切れず、杉田氏はその点に言及したかったのかもしれないが、それにしても言い方というものがある。

 杉田氏は、「女性のみが嘘をつくかのような印象を与え」た点よりも、性暴力の被害に遭った女性たちの心を傷つけたことについて、真摯に謝罪すべきであった。

月経と犯罪: “生理”はどう語られてきたか

田中 ひかる

平凡社

2020年12月18日 発売