階を上って探索を続けると……
沢田マンションの中は坂あり段差ありカーブありと難所が続き、増築してきたことがよくわかる作りだ。歩いていると自分がいま何階にいるのかもわからず、来た道を戻っているはずなのに景色が全く違って見える。
増築が重なったマンション内はまさに迷宮そのものであり、自分の部屋があったとしても、引っ越したてであれば、なかなか帰れそうにない。
先のわからないワクワク感に人様の家という緊張感が加わり、想像していた以上に興奮する。私はいつの間にかそろりそろりと忍び足になり、辺りを気にしながら手に汗を握っていた。
壁に直接書かれた注意書き
マンション内を彷徨っているといろんなものに遭遇した。
誰もが目につく柱の一つには、大胆にもマジックペンで「夜間通路は静かに歩きましょう!」と直書き。
少し開けたスペースにはベンチも設置されたコインランドリー。また上階にも雑貨屋やピアノ教室がオープンし、部屋の玄関先には自転車や車が駐車されていた。また、スロープの脇では果物が実り、至るところで季節の花が咲いている。テラスには土が盛られ家庭菜園もでき、マンションだというのに緑豊かなところも印象深い。
屋上にはさらなる衝撃が
いよいよ空が見える屋上まで上がってくると、信じられないことに池があり水が流れる滝まであるではないか。ここへたどり着くまでに見てきた「生活のある風景」とはまた違う、楽園のような雰囲気に驚いた。
さらに最も高い場所には大家さんの家が建ち、隣では動物が飼われ、広大な畑が広がっている。1970年代に作られたとは思えぬアヴァンギャルドな発想に、私は再び衝撃と感動で立ち尽くした。
沢田マンションは入居も可能
沢田マンションでは空室情報も出ており、空きがあれば入居することができる。家賃は広さにもよるが1室2万~5万円台。高知市内の相場より2~3割格安である。
もともと母子家庭など困窮状態にある人々の入居が優先だったところ、近年はその建築の壮大さや沢田スピリットに魅了された若者の入居が増加。海外からも注目され、多くのアーティストやデザイナーが訪問。部屋数はおよそ70あり、現在でも100人以上が入居している。
ちなみに沢田マンションは現在の法律では「違法建築」とされているが、諸々の理由で黙認されている。今後沢田マンションのようなセルフビルド建築は現れないであろう唯一無二の存在だ。少しでも長く利用されるよう大切に見守っていきたい。