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「殺したときには射精していました」“快楽殺人犯”とされた山地悠紀夫が女性殺しに走った本当のワケ

『日本の凶悪犯罪 昭和―令和「鬼畜」たちの所業100』より #2

2021/01/05
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 さらに動機についてもこう語った。

「私が2人を殺した理由は、昔、母を殺したときのことが楽しくて、忘れられなかったためです。それで、もう一度人を殺してみようと思い、2人を殺したのです。その対象は、この2人でなくても誰でもよかったのです」

 無差別に「誰でもよかった」と言っているが、明らかに姉妹の姉のA子さんを狙っていた。

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被害者女性の一人は江崎美幸にそっくりだった

 山地がいた大阪のマンションの下の階にA子さんは住んでいた。山地はA子さんの部屋の配電盤をいじって停電させている。同居人の有無を調べたようだ。犯行前日には壁伝いに侵入も試みていた。「誰でもいい」ではなく、帰宅時間を待ち伏せしてまで、犯行を実行したのだ。A子さんは背格好と雰囲気が、あの江崎美幸にそっくりだった。

 姉妹を強姦殺人したあと、山地は部屋に放火して立ち去っている。金目のものは置いていても、なぜか姉が愛用していたライターだけは持ち歩いていた。結局、それが逮捕の決め手でもあった。

©iStock.com

 江崎美幸への思いの代償行為としての殺人。初体験のことを知っている筆者は、そう確信している。

「母親を殺したとき、射精していた」山地を落とした女性検事

 その山地の殺人の動機を特定したのは、取り調べにあたった大阪地検の女性検事だった。彼女は間違いなく、山地の生涯で母親以外で一番長く時間を過ごした女性だ。法廷で見た彼女は、30代前半だろうか、パンツスーツにショートカットの理知的な美人だった。

 罪状はすべて認め、自らも死刑を望んでいた山地だが、起訴前の検察にとっては、不可解な動機だけが難点だった。そこで、検察は山地の供述に「快楽殺人者」というひとつの誘導を仕掛けたのではないか。そうした供述を引き出す切り札が、この女性検事だった。

「母親を殺したときには、あとで気づいたのですが射精していました」

 16歳では言わなかったことを女性検事の前で初めて語った。そのうえ、姉妹をレイプする供述も女性検事の取り調べで嬉々として語っている。彼女の前では、快楽殺人鬼・山地悠紀夫なのである。

 のちに法廷で「社会に戻れば、また殺人を犯すでしょう」とまで証言して、大きく報道された。