『カリオストロ』の現場での忘れられない失敗
――『カリオストロ』でも、皆さん暖かく迎えてくれたわけですか。
島本 優しかったですね。でも、しょっぱなから“出とちり”しちゃって。というより、出とちりどころか、現場からいなくなっちゃった。
最初に全員で本編を観て、ロール割りをして、1ロールごとにアフレコを進めていくんですね。観終わったらちょうどお昼になったので、「このロールに出てない人はご飯食べに行ってください」と言われスタジオから出ていったら、そのロールに思いっきり出ていた。ルパンと一緒に崖から落ちて、気絶した彼に「もしもし……」と呼びかける場面。カー・チェイスの後ですね。
あそこが1ロール目だったのに、すっかり忘れていた。すっごく図太い新人でしょ(笑)。ご飯を食べていたら、お迎えの人がすっ飛んできて「島本さん、出てる、出てる!」「エエェ~!」って(笑)。さすがに、この時ばかりは恐縮しましたね。
ーー公開時は興行的成功を収められませんでしたが、翌年にテレビ放送されたのをきっかけに高く評価されてクラリス役の島本さんも一躍人気声優になったと。送られてくるファンレターや年賀状の数がとんでもなかったとか。
島本 そうそう。あの頃、同じ青年座の先輩だった西田敏行さんが『西遊記』や『池中玄太80キロ』で大人気だったけど、西田さんよりも送られてくる数が多かったって聞きました。
ものすごく嬉しかったし、事務所から「ファンは大事にしなきゃいけないよ」と言われていて、真面目なところもあったから「ありがとうございます」って一通一通に返事を書いていましたね、『ザ☆ウルトラマン』の台本にサインを書いて一緒に送ったりして。いまはそういうことしちゃいけないんですけど。さすがに、私の返事とかサイン入り台本をいまも大事に持っている方はいないと思いますけど(笑)。
――黒田清子さんも紀宮さま(紀宮清子内親王)だった頃に、『カリオストロ』の大ファンになったそうです。
島本 たしか、クラリスを意識したんじゃないかというウェディングドレスをお召しになっていましたね。ご結婚なさるときに聞きました。わりとシンプルなドレスで、飾らない感じでいいなと思いましたけど。クラリスのことがお好きだったのなら、本当にうれしいです。
「アニメをやると舞台はできないの?」俳優と声優との間で葛藤
――『カリオストロ』の頃は、俳優を目指して青年座に入って2年目ですよね。演じるという意味では俳優も声優も一緒ですけれども、それでもなにかしら葛藤や苦悩みたいなものは抱えたりしていましたか?
島本 別になかったですね。ただ、どうしても絵とのタイミングを合わさなければいけないというのがね。気持ちも合わせなければいけないうえに、口のタイミング、しゃべるタイミングも合わせないといけないのが難しいっちゃ難しかったですね。でも、それなりに若かったので突き進んじゃっていたところがあったので。
――『カリオストロ』『ザ☆ウルトラマン』の後に3年に渡る学校公演に入るわけですが、やはり舞台に立ちたいという思いのほうが強い時期だったのでしょうか?
島本 そうです。『ザ☆ウルトラマン』の現場が「何曜日の何時から何時は絶対に来てください。他の仕事を入れないでください」と厳しかったので、舞台をお断りしなきゃいけないこともあったんです。
そのたびに「アニメのレギュラーを入れると舞台はやれなくなるの? 俳優の仕事はできなくなるの? 私はなにをやりたかったの?」と思って、『ザ☆ウルトラマン』が終わったタイミングで事務所に「レギュラーは入れないでください。でも、単発ならばやらせていただきます」と伝えたんです。そして学校公演のほうに打ち込みました。