国民的映画として愛されてきた『風の谷のナウシカ』が2020年12月25日に「金曜ロードSHOW!」で放送される。
同作でナウシカ役を演じたのは、『ルパン三世 カリオストロの城』クラリス役や『もののけ姫』トキ役など数々の宮崎駿作品に出演し「ジブリに愛された声優」と呼ばれる島本須美さん。現在はS&S声優コースの講師として声優の卵たちの指導にもあたっている。
声優業界における変化や、業界に対する問題意識について聞いた。(#1~#3の#3/#1から読む)
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同業者に「上手かった」と褒められて考え込んだ
――メイキングDVD『「もののけ姫」はこうして生まれた。』を観ると、『もののけ姫』が宮崎監督のボイスキャストに対する考え方の分岐点になっているのを改めて感じます。“演じている声”や“演技慣れしている声”との決別といいますか。
島本 同業者の方に「『もののけ姫』では、須美さんが上手かった。すごい演技力だった」と言われて考え込んだことがあるんです。
いわゆる舞台や映画での俳優というのは姿が見えている。それを踏まえてのセリフなので、そこに演技力のすべてを込める必要がないわけじゃないですか。姿が見えるということは、他のところでも演技ができるから。
でも、声優さんは姿じゃなくて声にすべてを懸けようとするから、入りすぎちゃう、やりすぎちゃう可能性があるんですよ。だから、他の方たちはやりすぎない芝居をされているか、私が声だけで表現しきれちゃう芝居をしちゃったので『もののけ姫』では逆浮きしているんじゃないかなと。
これは自分で自分をうまいと褒めているわけじゃなく、同業者に褒められたことで、「そうか。だから、『もののけ姫』以降は声優さんをあんまり使わなくなったのかな」と思ったりもしたんです。
姿に頼ってセリフを言っている俳優さんたちは、わりとセリフがスカスカになってしまう可能性がある。私たちからすると「なんで心を込めないのかな」と捉えてしまいがちになる。でも、そこは姿ありきの演技と声にすべてを込める演技との違いなわけです。だから、一概にどちらがいいとは言い切れないんじゃないかな。
――島本さんが考える上手い“声の演技”とは、どういうものでしょう?
島本 「こんなかわいい声で私はしゃべれるのよ」っていう演技は、わりと誰でもできちゃうんです。ただ、それゆえに誰かと似てしまう。そうじゃなくて、普通にしゃべっている声のままで役をきちんとこなせるようになるのが一番かなって。
最近、私はセリフには聞こえないようにセリフを言うことをポリシーにしています。リアリティーのある、日常会話に近いような、声優さんの存在が見えてこないしゃべり方にしようと心掛けています。『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』に呼んでいただいて演じた津村容莉枝役は、やりやすかったかもしれません。