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宮崎駿監督は、新鮮な演技を求めていたのではないか

――『もののけ姫』以降の宮崎作品は俳優中心のキャスティングに移行しますが、オーディションに呼ばれることは?

島本 ないです。そのあたりの事情は分からないですけど、だんだんとシフトしてきている感じではありましたよね。メインキャストに、ひとり、ふたりと俳優さんが入ってきてという。『紅の豚』もそうでしたし、『ナウシカ』でアスベル役を演じた松田洋治君も子役さんとして頑張ってらっしゃっているなかで、声の仕事にチャレンジしたわけですし。『となりのトトロ』だと糸井重里さんがお父さん役をやったりね。

 新鮮な演技を求めていたんだと思います。『風立ちぬ』で庵野秀明監督が出演されているくらいですものね。

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『風立ちぬ』より

――宮崎監督が島本さんにクラリスとナウシカを演じてもらいたいと考えたのも、声の魅力に加えて初々しさや新鮮さを求めていたところがあったのではないでしょうか。島本さんも当時、青年座の俳優としても活動されていたわけですし。

島本 そうだったのかもしれないですね。声優声優していない芝居でしたものね。

――クラリスとナウシカを演じられたわけですけど、若い声優さんから当時のことを訊かれたりするものですか。

島本 まったくないです。だって、もう私なんて知らない人はいっぱいいるし。「一生に一度は、映画館でジブリを。」っていうキャンペーンを映画館が仕掛けたので、初めて『風の谷のナウシカ』を観ました、っていう方もいらっしゃるぐらい。「映画館で観ると、やっぱり『ナウシカ』ってすごいんですね」とか「ジブリの最高作です」といった感想はいただいたりしているみたいだけど。たぶん、若い声優さんにとっては昔の世界なんでしょうね。

今の若い俳優は「アイドル性を求められている」

――S&S声優コースの講師として声優志望の方々にレッスンもされていますが、最近はどういうスタンスで声優を目指している方が多いですか?

島本 華やかな部分に憧れている人が多いですね。歌えるか、踊れるか、イベントに参加できるかみたいな項目が書いてあるシートがあって、それをキャスティングの際に用いるらしいです。「歌えません」とか「条件によってはイベントも参加可能」といった項目に、バツとかマルとか三角をつけてキャスティングするみたい。要するに、アイドル性が求められている部分が強いんです。

 でも、映画にしても、歌の世界にしても、アイドルって短期のものじゃないですか。いつまでもアイドルではいられないわけで。声優界がアイドル探しみたいな状況になっているからこそ、アイドルになった後先のことを考えないと。女優さんに転身するとか、レポーターになるとか、作家になるとか、いろいろと道はあるとは思うんだけれども、そこを上手に進まないと駄目だなって。

 

 女性の声優だったらお母さんになって終わりとか、アイドル時代が終わったら「次の仕事はどうしよう?」と慌てて考えなきゃいけない人が出てきちゃうんじゃないかなと思っています。

――そういった風潮があると、業界の多様性の幅も狭まっていきそうです。

島本 アイドルに憧れている、アイドルを目指している人が声優になっていくので、業界的にちょっとした飽和状態になっている気がして。どうしたって主役の座は、数が限られているんですよ。自分に近いところで、キャラクター作りをしていかないと。

 可愛い声を出すことは誰でもできることだし、そういう声で主役を目指しても競争相手が多いわけだから道は遠い。だから、自分の声に合う、演技の仕方が自分に合うキャラを見つけていくことが大事な気がします。