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20回もリテイクした『もののけ姫』のシーン

――メイキングDVD『「もののけ姫」はこうして生まれた。』を観ると、「せっかくだから、代わってもらいな」というセリフを20回もリテイクさせられていますよね。やり直すたびに宮崎監督はにこやかに「ぞんざいさが出てない」「靴の上から足を掻いてる感じ」「職業上の仮面があるね。それを引っぺがさないと駄目だね」などと言うんですが、それでいて監督の要求や指示もいまいちわからないというか。とにかく、観ていてハラハラしてしまいますね。

島本 苦労していたでしょう、私(笑)。いろいろと宮崎さんは言ってくださるけど、全部を取りまとめると絶対にひとつのものにはならない。それを自分でも分かっているのに、言われているときは「これも入れて、あれも入れて、それも入れて」ってテンパっちゃうから、さらにまとまりがつかなくなる。

「せっかくだから、代わってもらいな」のシーン(『もののけ姫』より)

――でも、島本さんは苛立ったり、落ち込んだりはしていないんです。

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島本 苛立ってはなかったです。ただ、なにを言いたいのかわからないというだけで。あのアフレコは不定期的なスケジュールで、1ヶ月とか1ヶ月半おきに録っていたんですけど、「それでいいです」と言われたのがいちばん最後に録ったもの。「いちばん最初にやったテイクと一緒なのになぁ……」とか心のなかでは思っていましたけど。

 結局、完成版を観ても何テイク目のものが使われたのか、ぜんぜんわからなかった(笑)。

ーー完成版をご覧になって「せっかくだから、代わってもらいな」に対する宮崎監督の指示の数々に納得できましたか?

島本 いまだに、そんなに深い意味のあるセリフのようには感じてないですね。ただ、どんなふうに駄目だったんだろうって。

 私は声質からいって、どうしても優しくなりがちなんですよ。それは自分でわかっているから。おトキさんは、優しさとか品のよさとかそういうものを全く求められていない真逆のキャラクター。上品系とか線の細い系の役が多かった私にしては、ダーンとしているキャラクターなんですよね。

 

 そういう意味で言うと、トキさんは最も役作りしたし、大変だったかもしれないです。“ぞんざいさ“とかって、私にとってはすごく難しかった。だから、宮崎さんも引っ掛かったんでしょうね。

【#3を読む】「声優志望者も業界も『アイドル』を求めてる」ジブリに愛された声優・島本須美さんの“危惧”

写真=鈴木七絵/文藝春秋

【参考文献】
▽「映画 風の谷のナウシカ GUIDE BOOK 復刻版」徳間書店 2010年
▽「島本須美 これからの私」徳間書店 1984年
▽責任編集・養老孟司「キネ旬ムック フィルムメーカーズ 宮崎駿」キネマ旬報社 1999年
▽浦谷年良「『もののけ姫』はこうして生まれた。」徳間書店 1998年

 

ワーナーミュージックより、島本須美さんのアルバム『sings ジブリ リニューアル ピアノ バージョン』が発売中。