NHKのスペシャルドラマ『坂の上の雲』(2009~11年)では、主人公のひとりで、日露戦争では連合艦隊参謀として活躍した秋山真之を演じた。
それにあたっては、広島県江田島の海上自衛隊に2日間体験入隊した。このとき、大きな船艦に乗せてもらい、《この鉄のかたまりで大海原に漕ぎ出したら、どれほど孤独で、どれだけ強くなれるだろう》と想像したという(※2)。
歴史上の人物に扮した作品にはさらに、戦争末期における昭和天皇を演じた映画『日本のいちばん長い日』(原田眞人監督、2015年)がある。これは1967年の岡本喜八監督作品のリメイクだが、旧作では歌舞伎役者の八代目松本幸四郎(のちの初代松本白鸚)が天皇を演じたものの、その姿を正面から写すことはなく、キャストクレジットにも明記されなかった。
それをリメイクでは、天皇の動向もきちんと描くことになった。原田監督からの希望はひとつ、《物真似はしなくていい。“本木”天皇を演じてくれればいいから》というものであった(※3)。これに本木は若干戸惑いつつも、自分なりに文献や映像資料などにもあたりながら考えた末、《昭和天皇の姿をベースに歴代の天皇が受け継いできた和への祈りのようなものを纏い「天皇としての“役割”」を演じようと心掛けることにしました》という(※4)。
義母・樹木希林が本木に伝えた言葉は…
昭和天皇の役を引き受けるにあたっては、その役の大きさにさすがに迷ったという。そこで本木が相談したのが、義母である女優の樹木希林だった。このときのことを彼は次のように振り返っている(※4)。
《希林さんは『原田さんがあなたにオファーした理由がわかるような気がする』と言うんです。つまり、あなたの持つ、生活感が見えにくく、何にでも器用に変化できるとも言えない幅の狭い感じをうまく利用すれば、どこか浮世離れした特別な人物が醸し出すものを自然に表現できるんじゃないの? と。実際にはこんなに詳しい説明があったわけではないですが、常々言われていることを総合するとそういうことなのかなと(笑)》