今年は、NHKの大河ドラマでは『徳川慶喜』以来22年ぶりの出演作となる『麒麟がくる』で戦国武将・斎藤道三を演じた。「まむし」や「梟雄(きょうゆう)」と呼ばれ恐れられた道三だが、本木は自分なりにこんなふうに演技プランを立てた。
《私は、どちらかといえば感情の発露が少ないタイプですし、抑制をしてしまいますが、道三役では、ここぞというときはあえてタガを外してみようと思っています。ちょっと恥ずかしいのですが(笑)》(※8)
この言葉どおり、本木の演じる道三は、ときに脇目もふらずに嗚咽するなど喜怒哀楽が豊かだった。また案外ケチだったり、かと思えば、娘婿に毒を入れた茶を勧めて殺害したりと、俗っぽさも近寄りがたさも併せ持った人物となっていた。
樹木希林からは、「当たり前でいることがどうもうまくできない人ね」「それはいち役者の持ち味としては稀少だけど、もう少し自由なところへ自分を解放しないと苦しいわよね」というようなことも言われていたという。
“高貴さ”と“等身大の役柄”の掛け合わせという新境地
『永い言い訳』公開時のインタビューでは、樹木の言葉を受けて《いちおう私ももう50ですが、この世代の役者に見るその年齢なりの佇まいとか男の渋みみたいなものを出せるタイプでもないので無理がある。かといって、役者としていつまでも青年病みたいなものに罹り続けているというのもやっぱり虚しいので、別の色合いを発掘しなければならない》と語り、年齢なりの年の重ね方はできなくても、それが魅力となるような俳優像を模索していた(※6)。
それから約5年。50代も半ばに入った本木雅弘が演じた道三は、浮世離れした高貴な役柄に、『永い言い訳』で演じたような時々脆さも見せる等身大の役柄を掛け合わせたものともいえそうだ。そこにはどこか余裕もうかがえる。これを機に彼は俳優として新たな扉を開きつつあるのかもしれない。
※1 武藤起一編『シネマでヒーロー[監督篇]』(ちくま文庫、1996年)
※2 『プレジデント』2009年12月14日号
※3 『キネマ旬報』2015年8月増刊号
※4 『文藝春秋』2015年7月号
※5 『文藝春秋』2020年1月号
※6 『キネマ旬報』2016年10月下旬号
※7 『AERA』2016年10月17日増大号
※8 『厚生労働』2020年1月号