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「絶対にプロになるという強い覚悟が君にはない」

 首都圏と違い、愛媛から奨励会に入る少年は多くない。黒田さんにも藤岡さんにも、プロになって愛媛の将棋界を盛り上げて欲しいという期待がかかる。松山将棋センターで育った1歳違いの2人は、よく比べられた。

「絶対にプロになるという強い覚悟が黒田君には感じられるけれど君にはない。だから勝てないんだ」

 将棋センターに通うアマ強豪には、こんなことを言われることもあった。

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「黒田さんの意志の強さは自分も感じていました。それに比べて自分は、趣味の延長で将棋をやっていて、将来の職業にするという覚悟が足りなかった」

 6級に復帰して5級に昇級、成績のほうはやっと上向いていたけれど、中2の春に藤岡さんは退会を決意する。

「師匠の畠山先生には、あと1年くらい頑張ったらどうかと言われました。でも、黒田さんに退会の決意を伝えると『そうか』と言われただけでした。児島先生も同じような感じで、2人には、自分に覚悟が足りないことを見透かされていたと思います」

 最後の奨励会例会では「1年半お世話になりました」と挨拶をして、「もう二度と足を踏み入れることはないだろう」と思いながら関西将棋会館を後にした。松山将棋センターからも離れ、すっぱり将棋を辞めた。

自分にできなかったことだから

 藤岡さんが東大3年に進級するころ、黒田四段はプロ昇段を決めた。その三段リーグ最終日の夜遅く、松山から上京していた恩師の児島さんから「黒田君のお祝いにこれから飲もう」と突然電話がかかってきて、藤岡さんは駆け付けた。

「黒田さんは、僕と一緒に奨励会に通っていたころから、ずっと努力していて絶対プロになると感じていました。嬉しくて心からおめでとうを言い、朝まで飲みました」

愛媛県出身の黒田尭之四段と山根ことみ女流二段(山根ことみ女流二段のTwitterより)

 黒田四段のことも、山根女流二段のことも、中継を見たりしてずっと応援している。

「2人とも将棋の道を究めようとして、努力して結果も出している。プロはこうあるべきということができていると感じるし、自分にできなかったことだから尊敬しています」

写真=末永裕樹/文藝春秋

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