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満腹でも人を襲う

 加害グマは調査の結果、年齢は4歳とされた。体長が140㎝で体重は84㎏とされたが、写真で見るクマの死体は秋にしては体に張りがなく、疾病を思わせたがそれについての情報はない。胃体部には採食したクリの実が充実し、空腹ではなかった。噴門部には人間由来の皮膚様組織が詰まり、満腹状態でも食害に及んでいる。

 被害者3人とも頭頸部への傷の情報がないことから、クマが被害者の下半身に咬み付いて離れず失血死したとみられ、腰部、臀部、下肢が食害された。 

 これらのことから、私には4歳グマにしては攻撃の仕方が未熟に見える。親グマによる親離れ訓練が不十分なままの若グマが、動きの鈍い人間を襲ったように思えるのだ。

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 この3件の事故はクマが潜行して後ろから突然襲ったと見られ、我々クマ研究家が提案している防御法も効果がなかっただろう。複数人で入山しても襲われており、クリで満腹でも食害しており、あまりにも攻撃性が強かった。

©iStock.com

 これらの事件の教訓から「食害事故が発生した地域は、その年は厳重に入山規制の指導を行うのがよい」と私は考えたが、十和利山クマ襲撃事件ではタケノコ採りの人たちの入山意欲が強く、また行政側は戸沢村事件そのものを知らず、教訓が生かされなかった。

 クマが食うために人を襲った、端的に言えば「人狩り」事件は、戸沢村事件以降は発生していない希なものだったが、十和利山クマ襲撃事件で新たな歴史が始まった。

 それに偶発的接触から人を殺害し、食害する事故は福島県会津地方で続いていることも警戒が必要で、15年から私は調査に通っている。

事件が継続する地域がある

 一見して何頭ものクマが出没して事故が多発したように見えるが、クマの家族サイズ、体型などが類似していることなどから、実は同一家族系のクマが事故を起こし続けた、再犯を疑わせる例がある。岩手県釜石市の甲子、野田、定内、唐丹地区で、94年から99年に11件の事故が連続し、重傷事故が多かった。「初夏から夏に、山菜採りの人だけに発生した」ことから、定着性の強い雌グマが襲ったことが考えられる。