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M-1から「正統派」が消えた? マヂカルラブリーを巡る激論で、松本人志の“あのフレーズ”を思い出すワケ

2020/12/22
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破壊力抜群の大声ツッコミvs不気味で自由なボケ

 彼らは、一方が次々に歌を歌うのに対してもう一方がツッコミをいれるというシンプルな形の漫才を披露した。誰にでも理解できるわかりやすいネタで爆笑をさらった。

 おいでやす小田の過剰すぎる大声ツッコミは、切れ味が良くて破壊力抜群である。ツッコミのパワーによってシンプルな歌ネタを何倍も面白く見せることに成功していた。

おいでやすこがのこがけん(左)とおいでやす小田 ©M-1グランプリ事務局

 間口の広いわかりやすいネタを持ってきたのがおいでやすこがだとしたら、あえて間口の狭いネタで勝負したのがマヂカルラブリーである。彼らは、ボケ役の野田クリスタルの不気味な存在感と自由奔放な動きを武器にしている。

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掟破りの史上最速のツカミ芸

 登場時、せり上がって舞台に出てくるところで、野田だけは膝をついて土下座の体勢をしていた。掟破りの史上最速のツカミ芸である。冒頭の自己紹介の場面でも野田は自分の名前を名乗る代わりに「どうしても笑わせたい人がいる男です」と、過去の決勝で審査員の上沼に酷評されたことをネタにしてみせた。ここで空気をつかむと、高級フレンチレストランでのマナーを題材にしたネタに入った。

 自分のマナーに不安を感じている野田が、レストランに入るシミュレーションを始めた。そこで細かいマナー違反をするのではなく、体全体を使って派手に動き回った。窓ガラスをぶち破って入店したり、丸太をぶつけて入口のドアを叩き壊したりした。マナー違反どころではない暴走をひたすら続けていった。

マヂカルラブリーの野田クリスタル(左)と村上 ©M-1グランプリ事務局

 あまりの馬鹿馬鹿しさに爆笑が起こり、上沼も好意的なコメントを残した。マヂカルラブリーはこのネタでファーストラウンドを2位で突破した。

 ファーストラウンド3位に食い込んだのは正統派漫才師の見取り図である。いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子になったかまいたちは「ポスト千鳥」などと言われることがあるが、それになぞらえて言うなら、見取り図は「ポストかまいたち」の逸材である。