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阿倍野の路地裏に佇む“地元の中華料理屋” 70代店主が作る「フライメン」はビールとの相性抜群だった!

B中華を探す旅――阿倍野「さか市」

2020/12/25
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ビールとの相性バッチリ!

 かくして出てきたフライメンは予想どおり、あんかけのかた焼きそばであった。が、やはり関東のそれとは違う気がする。必要以上に関東との差を強調したいわけではないが、揚げられた麺がとても太い。

 もやし、椎茸、キャベツ、にんじんなどがたっぷり入った餡もこってり濃厚で、これまたビールとの相性バッチリ。早い話が“アテ”になるのである。

「大阪では昔から、だいたいフライメンといったらこれ、この太さ。逆に細いのは皿うどんかなと思ってる」

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 そう答えてくださったのは、店主の外間政弘(そとままさひろ)さん。30年ほど前から、ここで営業を続けている。前に勤めていた店も300メートルくらいしか離れていないところにあったので、このあたりには45年くらい根を張っていることになる。

 とはいえ生粋の大阪人ではなく、出身は沖縄。18歳だった昭和39年に大阪へ来たのは、都会への憧れがあったからだ。料理もそのときから学び始めた。

不思議なロケーションだけど心地よい

「学ぶいうか、仕事がなかったから、たまたま入っただけで。入ったのは、ここよりもうちょい大きな中華屋。もう立ち退きになってないけども、ここから歩いて10分ぐらい。いまはアポロビルになってるところ。そこに5、6年おったね」

 その後、親戚が営んでいた店で7、8年働いたのち、東京を見てみたくて上京。千葉・船橋の店に1年ほど勤めたが、関西の水が合っていたようで、ふたたび大阪に戻った。

 
 

 そんな経緯を経てきたからこそ、「ここが地元みたいな感じがする」そうだ。

 ちなみに「さか市」という店名も当時の店から譲り受けたもので、熊本出身の奥様、一枝(かずえ)さんとも店で知り合った。一枝さんはもともと別の会社で働いていたが、そののち、足を悪くして退職した前任のおばちゃんの後釜として入ったのだ。だから、「私はまだここに就職して14年ぐらい」だと笑う。

 それにしても、やはり不思議なロケーションである。どう考えても、すぐ近くに「あべのハルカス」があるとは思えない雰囲気。だが、そのミスマッチな感じが心地よい。15時に近づいて客足も少なくなると、時間がさらにゆっくりと流れ始める。

 

「ここは発展が遅かったんやな。初めて来たときなんかは、商売をこんなとこでようするなあと思った。でも、このへんはね、治安的にすごくいいし、人間的にもいい人ばかりだわ。だから、大方50年ぐらいやって、店でもめたことってそんなない。つらかったいうこともあまりないし……いや、苦労は1回もないね、1回も」

 そんな人情味あふれた店に、テレビの取材スタッフが気づかないはずがない。町中華ブームということもあり、少し前に取材の依頼があったそうだ。