資本主義が行き詰まってしまったいま
こういう経済合理性の外側にある問題をサステナブルな仕方で解くには、たくさんの人の知恵を結集して、非常に高いエネルギーで深く考えなくてはなりません。それには「お金をあげるからアイデアを出してくれ」と言ってもダメで、経済的な報酬が人のクリエイティビティを補填しないというのは様々な研究で明らかですから、重要なのは内発的な動機にほかなりません。
まさにケインズの「アニマル・スピリット」であり、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターのいう「ディオニュソス的な起業家精神」が必要なのです。
ケインズの生きた第二次産業革命末期から約100年経ちましたが、「無限の成長」を求める資本主義が行き詰まってしまったいま、合理的な計算やロジックを超えて、人類史でビジネスというものが始まったときにあった本来的なスピリットにもう一度立ち返ろう、というのが私からの提案です。新著『ビジネスの未来』では、そのために具体的に何が必要で、これからの社会にどんな制度設計が必要かを多角的に検証し、ビジョンを示しています。
私たちのビジネスにヒューマニティを取り戻すとき、真に豊かで生きるに値する社会は必ず実現できます。本書が、「成熟の明るい高原」のような社会に向けて考え、行動するための一助となれば嬉しく思います。
撮影:文藝春秋/佐藤亘
山口周(やまぐち・しゅう)
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。17万部超のベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(ビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞受賞作)をはじめ、『外資系コンサルの知的生産術』『武器になる哲学』『ニュータイプの時代』など著書多数。