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GDPというのは不幸になると増える

 ひと昔前まで新聞やビジネス誌を賑わせていたBRICsという時代のキーワードですが、近年のデータを調べてみると日本とほとんど変わらず経済成長していないことは明白です。たとえばロシアは2010年代のGDP成長率は0.91%で、フランスや日本と同レベルまで急落し、ブラジルについても1.21%まで低下しています。歴史的にみて世界のGDP成長率は50年代から90年代にかけてピークを記録したあと、明確な下降局面に突入していました。

「物質的欲求にかんする不満の解消」は「市場における需要の縮小」を意味しますから、「無限の成長を求めるビジネス」という仕組み自体に無理があります。ロバート・ケネディは「GDPというのは不幸になるとむしろ増えるものなんだ」と言っていますが、まさに本質をついていて、GDPは破壊と非常に近接している概念です。たとえば、まだアスファルトの道路が敷かれてないならどんどん道路を敷いていく、高速鉄道網が整備されていないなら新幹線を通す、この段階では高い経済成長率を示せますが、インフラが行き渡ってしまえば、スクラップにして破壊しなければリプレイスできない。つまり、戦争や災害のような不幸があるとGDPって増やせるわけですよね。

 

――たしかに経済成長率ランキングのトップはリビアやエチオピアのような政情の不安定な国です。

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山口 「無限の成長」を求めていては必ず破綻しますし、その考え方自体が非科学的なファンタジーだと私は思っています。トマ・ピケティの指摘では、世界経済のGDP成長率が2%の「低調なペース」で推移したとしても、世界経済の規模は100年後には現在の7倍に、300年後には370倍になっていなければなりません。これが「望ましい水準」とされる4%なら、100年後に現在の49倍に、300年後には12万9000倍になっていなくてはならない。まったく馬鹿げた空想的な話ですよね。

 でもビジネスの世界には成長好きな人がたくさんいます。みんな優秀で、会えばナイスな人で、個人的に仲のいい人も多いのですが、なかなか「経済成長を前提とした社会システム」の虚妄を理解してもらえません。

――経済成長なくして社会は成り立たない、成長にはイノベーションが必要不可欠だと、私たちは刷り込まれ続けてきました。ところが、現代社会で画期的とされてきたイノベーションが実はほとんど新しい市場を生み出せてこなかったという本書の指摘もまた衝撃的でした。