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フェイスブック、ツイッター、グーグル……多くのテクノロジーイノベーションが実は経済成長に貢献していない訳

2020/12/28

source : ライフスタイル出版

genre : ニュース, 経済, 企業, 読書

note

新たな仕事を生み出す隙間がない

――日本人の働き方は生産性が低いと叩かれ続けてきたことに関してはどう思われますか。

山口 労働生産性が相対的にみて低いのはたしかだと思います。それは根回しの文化だったり、いらぬ会議資料の作成だったり実質を伴わない仕事がかなり多くて、そこを効率化する課題はあるとは思います。ただ市場のパイが広がらないまま生産性を追求しても、仕事にあぶれる人が増えるばかりです。

 これが、人口が増えているとか国土にまだ未開発の部分が多い国なら、生産性向上により余剰人員が出たら、別の隙間を埋める新たな仕事が生み出せます。日本なら60年代にはまだ多くの隙間がありました。たとえば上下水道というインフラの普及率ひとつとっても東京オリンピックの少し前の1962年時点で、53%です。私が生まれた70年代でも、まだ日本の2割の人々は水道がないところで暮らしていた。成長できる隙間が社会のいたるところにあったわけです。

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 いま日本でおきている様々な問題点の根っこには、高度経済成長期にバリバリ働いていた人たちが社会の上層部にいて、彼らにとって「健全な経済とは、毎年5%くらいの成長をしている」というイメージがノスタルジーとして染み付いていることがあります。仕事の原体験として、事業は毎年のように成長していくのが当たり前だった。

 私は最初電通でキャリアをスタートしているのですが、社史を見ると、47年以降に快進撃がはじまって、対前年比売上高118%とか、今からすると本当に驚異的な成長が毎年続いていくんですね。売上高倍増計画は4年前倒しで達成とか(笑)。

 

 こういう時代に青春時代を過ごした方たちは、脱成長社会って想像できないし、心理的に受け入れがたいのでしょう。ただ、「成長しなくてもどう社会を豊かに運営できるか」という粘り強い思考を経たうえで拒絶しているのではなく、そんなものは考えたくもないし想像したくもないという、生理的な嫌悪感が先にたっているように思えます。

 しかしいまや過去のノスタルジーに囚われることなく、ビジネスの本質的な原点に立ち返り、新しい社会のイメージを持つべきときが来ていると思います。

――具体的にはどのようなビジョンでしょうか。