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市場そのものは広がっていない

山口 これはノーベル経済学賞を受賞した2人の経済学者、アビジット・V・バナジーとエステル・デュフロが書いているのですが、「先進国に関する限り、インターネットの出現によって新たな成長がはじまったという証拠はいっさい存在しない」という。最初に読んだときは私も衝撃を受けましたが、それはなんとなく以前から感じていたことではありました。インターネット革命、GAFAの躍進と、世界を変えるイノベーションがこれだけ起きてきたのになぜ経済成長率はずっと下がり続けているのだろうか、と。

 よくよく考えてみると、グーグルもフェイスブックもツイッター社も、売上はほとんどが広告です。広告というのは非常にGDP感応度が高く、景気感応度も高くて、広告市場の変動とGDPの変動を取るとほとんど同じ波になります。つまり、巨大テックの自助能力で広告市場は伸びたり縮んだりはせず、基本的には世の中の需要で決まる。

 

 しかし大きな存在感を持っているということは、結局は広告市場のなかでのシェアを彼らが奪っているだけであって、市場そのものは広がっていない。既存の市場の内部でお金を「移転」させているに過ぎないのです。

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――広告費を各社縮小するなかで、ネットやSNS広告にかける費用の割合はどこの企業も増えていますね。

山口 それはデータも如実に物語っていて、ユーチューブやフェイスブックが日本に導入される直前の2007年、日本の広告市場は総額7兆191億円でしたが、2018年には6兆5300億円へと縮小しています。巨大テックのサービスは私達の生活を大きく変えたように思えますが、どれほど新しい経済価値を生み出したのか大きな疑問が残ります。

 

 もうひとつは、テクノロジーと生産性の関係です。たとえばイノベーティブな技術を使うことで、より少ない人数で同じだけの富を生み出せるようになると「生産性が上がる」わけです。いままで1000人の雇用である一定の売上を作っていたのが、テクノロジーによる生産性向上で10人でできるようになった。するとその会社はとてつもない成長率で、その10人にはものすごい富が集まるわけですが、世の中全体の富は増えていない。生産性、生産性と言い続ければ、どこもかしこも限りなく最少人数で最大業務をこなす社会を招くでしょう。これでは格差が拡大するのは当たり前です。