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「女将が宴会中盤『気に入ったコがいたら宜しく』と…」会社の慰安旅行先が“ヤバい島”だった若手社員の告白

『売春島』外伝#2

2020/12/28
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会社の慰安旅行先が「売春島」

 名古屋在住の加藤さん(55歳、仮名)が島に渡ったのは、1993年ごろである。前田さんのように好奇心から行ったのではない。28歳、不動産会社の営業マンをしていた。そして会社の慰安旅行先が偶然にも売春島だった。

「『伊勢に行くぞ』と言われ、何も知らないまま近鉄列車に乗りました。女性を買うことも知らされませんでした。昼に伊勢でゴルフをして、夕方過ぎ、『さあ、メシだ』と連れて行かれたのが渡鹿野島だったのです」

観光客を出迎える島の看板(著者提供)

 男ばかり総勢30人の団体旅行。ホテルにチェックイン後、大浴場で汗を流しそして、宴会場へ。社長の乾杯の合図の後、着物姿のオンナたちがゾロゾロとやって来て浴衣姿の男たちに酌をして回った。

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 オンナは若い20代の日本人ばかり。飛び抜けた美人はいなかったが、歓楽街なら“当たり”の部類に入るコしかいなかったという。加藤さん本人はホテル名を覚えていないというが、利用したのは、ホテルAだと推測できる。当時のホテルAの宴会は島内で唯一、着物着用が義務付けられていたからだ。

宴会で女性を指名するのが“売春島”のシステムだったという(2005年、著者提供)

「お前はあのコを指名するんだぞ」

 会も中盤になって、皆が赤ら顔になったところで、女将は言った。

「気に入ったコがいたら宜しくお願いします」

 30人ほどの女のコがそれぞれお酌をし、ひとり2、3分で交代して行く。ところが中に一人、いっこうに加藤さんの元を離れない20代前半のオンナがいた。

 勝手知る上司が耳打ちした。「お前はあのコを指名するんだぞ」と。加藤さんは戸惑いながらも、逆指名だと理解した。

置屋の内部。ここで売春婦たちが斡旋されていた(著者提供)

「団体の中でもとりわけ若かったから、気に入ってくれたのだと思います。先輩たちがショートやロングで遊ぶなか、私はその子をロングで指名し、彼女が寝泊まりしているという家に移動しました。

 部屋は3畳ほどしかなくて、ベッド、タンス、冷蔵庫、クーラー、テレビといった必需品を置いたら一杯になる物置のような部屋。窓もなく、天井も私の背丈ほどしかなかった。ホテルの螺旋階段の真下だったから多分、もともとは本当に物置だったんじゃないですかね。その部屋の様子を私が訝しんでいると、なぜか彼女は自分が置かれた境遇を語り出したんです」

 飄々と語っていた加藤さんが、初めて口ごもった。