「10日間です」
「なんや10日契約で辞めるんか。早く帰ってまともな会社に就職せえ」
10日で辞める人間に何を教えても無駄である。アタッチメントの交換は基本的に高見さんがやることになった。
壊しちゃいけない場所まで壊して、倒壊しないか……
ユンボで地面を掘り返すとおびただしい数の鉄筋がぐちゃぐちゃになって飛び出してくる。結局こんなにぐちゃぐちゃにするのなら、こんな粗大ゴミ初めから作らなければいいのではないか。スクラップ&ビルドばかり繰り返して、無駄なことばかりしてバカなんじゃないか。そんなことを考えながら粉塵に水を撒いていると、3階から「ガガガガガ」と耳をふさぎたくなるほどの轟音が聞こえてきた。
そんなむやみやたらに壊して大丈夫なのだろうか。まだ壊しちゃいけない場所まで壊して一気に倒壊しないだろうか。解体現場の作業員が下敷きになって死亡する事故をよく目にする。今までは他人事だったが、もうそういう訳にはいかない。
ついに振動で3階部分の窓が割れたのか「バリバリ」と音がした。思わず上を向くと無数のガラス片が降ってきている。とっさに下を向くとヘルメットの上で無数のガラス片が跳ねた。中には15センチ角ほどの鋭利なものもあり、ヘルメットがなければ今頃私は脳みそを垂れ流しているだろう。肩や腕に当たっていても切り傷では済まない。高見さんはバーナーで鉄筋を切るのに夢中で気付いていない。その体勢だと背中にガラス片が思い切り刺さってしまう。
「高見さん! ガラス! ガラスが上から降ってきています!」
と私は叫んだ。
「気い付けえや」
高見さんはそういうと再び鉄筋を切り始めた。背中に刺さったらどうするの? ヘルメットをしているとはいえ、首筋の頸動脈を切られたら本当に死んでしまう。私はホースを投げ出し安全な場所へ逃げ出した。
「高見さん、さっきガラスがヘルメットにバンバン当たりましたよ」
「ガラスが落ちてくるなんて日常だぞ。そのためにヘルメット被っとるんやろ。解体の現場はこの業界でも一番ケガが多いんや。ある程度は覚悟持ってやらんと仕事にならんで?」
運が悪ければ死んでもおかしくないということか。たしかにガラス片を気にしていたのは現場で私だけ。3階で重機を動かしている人間も、窓が割れたことにすら気付いていないだろう。
「違う現場で安全帯つけんと作業していた奴がいてな、そいつは目の前で穴に落ちて死によってん。とんだ迷惑や。兄ちゃんも気を付けや。重機に背中向けるのは殺してくれって言っているようなもんやで」