ゾッとする形相で倒れていた父親
「ドタドタドタッ!」
部屋の外から凄い音がしたので、急いで玄関を見に行くと、ドアが開いていた。
当時達樹さんは市営住宅の3階に住んでいたのだが、部屋の外に出てみると、親父さんは1階の踊り場で倒れていた。達樹さんはすぐさま親父さんを介抱しようとするも、顔を見てゾッとしたという。
「オニムシはおる」
そう呟いていた時とまったく同じ形相だったからだ。
すぐに救急車が到着し、一緒に乗って病院へ行った。しかし親父さんはすでに息絶えていた。
死因は脳挫傷。
脳挫傷とは、頭部を強打するなどの要因によって外傷を受けた際に、頭蓋骨内部で脳が衝撃を受けて、脳本体に損傷を生じる状態のこと。つまり外的要因で亡くなっている。ガンが原因ではなかったのだ。
「オニムシ」とは何だったのか?
達樹さんは後になって「オニムシ」について調べた。
オニムシとは、クワガタやカブトムシなどの角の生えた昆虫を表す、主に栃木や茨城でよく使われる方言である。
「後から思ったんですが、親父が毎日電話してたのは保険屋ではなく、別の、角の生えた“何か”やったんかなぁと。何かから逃げるように死んでいった親父の行動から、今でもそう思っています」
余談だが、僕は今から4年前に、自分だけが真っ黒になって写っている写真が撮れた。
その写真を見た怪談和尚の三木大雲住職は、「タニシさん、あと5年で全てをなくします」と忠告した。
余命宣告ではないが、その忠告が正しいのならば、来年が僕にとって“最後の1年”になる。果たして僕にも「オニムシ」という虫の知らせは来るのだろうか。