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「働きにきた女だと思われた!」 三重に実在する“ヤバい島”を作家が書き留めたわけ

花房観音さんインタビュー#1

2021/01/08
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男の「自分に都合のいいファンタジー」に違和感

 欲望を満たしたい時だけ利用して、それ以外の時は穢れのように扱っても、踏みつけても構わない――。花房さんは作品の中に4人の娼婦たちを登場させ、世の中が“なきもの”にしようとしている存在を浮かび上がらせる。

©️文藝春秋/釜谷洋史

「官能小説を読んでいると、男にとって都合のいい女ばっかり出てくるんです。美人で清楚で身持ちも固いけど、主人公とだけはヤりまくってすぐイッちゃう。ファンタジーと言ってしまえばそれまでだけど、ずっと違和感がありました。

 現実世界では、自分がどんなにヤリチンでも、なぜか自分の奥さんだけは浮気しないと盲信している男もいますよね。あと、俺の娘は処女に決まってる、とか。

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 そういう男の人にとっての女って、自分に都合のいいファンタジーで、それが裏切られると勝手に逆上する。それで、女を“聖女”か“娼婦”かのどちらかに分類したがる傾向があります。

2015年当時の渡鹿野島(花房観音さん提供)

 でも実際にはそんな単純じゃないですよね。奥ゆかしそうな子が売春しているなんてよくある話だし、AV女優だって売れている子の見た目は圧倒的に清純派です。ほとんどの女は、自分の中に“聖女/娼婦”という二面性を合わせ持っているのに、男や社会はそれを認めようとしないんです」

《脆弱な男は処女が好きです。処女性を求めるのは、心の弱い男です。処女の価値なんて、自らが優越感を得られることしかありません。処女を犯す男は、自分しか知らない女を手に入れて悦ぶ愚か者です。処女より、娼婦のほうがよっぽど男たちを救い、また自らの肉体を手に入れている》

 妻には「聖母マリア」でいてほしい。けど、マッチングアプリで会う相手には娼婦の「マグダラのマリア」であってほしい……。本作のラストでは、男の身勝手な欲望を粉砕する真実が突きつけられるのだが、花房さんは、ファンタジーを抱いてしまう男性たちに同情を覚える、とも話す。

2015年当時の渡鹿野島(花房観音さん提供)

「娼婦」を求める一方で差別

「だいぶ昔ですが、ワイドショーを見ていると、外国人妻を探しているという地方在住の男性が、『なんで日本の女性じゃ駄目なんですか?』という質問に、『日本の女の子は自分の意見を言ってわがままだから嫌』と答えていて、衝撃を受けました。自分の意見を持っちゃいけないの? って。

 これって自分に自信がないことの裏返しで、意志のある人間が相手では自分が上に立てないから駄目ってことなんですよね。男性は、自分が老いても、恋愛や性の相手に10代や20代の若い女を求めがちなのもそうだし、処女が好きなのも同じ理由です。女性の方が自分より経験人数が多いと他の男と比べられやしないかと不安だと言われたこともあります。でもそのすべては男の人の自我の脆弱さが原因だと考えたら、可哀そうにもなります」

©️文藝春秋/釜谷洋史

 自らの性に自覚的な意志ある女は、自分の支配下に置くことができない。ゆえに男たちは「娼婦」を求める一方で彼女たちを妻にすることはなく、差別することで「脅威」を遠ざけようとしているのかもしれない。

 かたや、男性に好かれたいと考えた時、女も「ウブなフリ」をすることがある。間違っても2桁の経験人数は口にしないし、「オナニー? わかんないよ~」と嘘をつくかもしれない。後編では、そんなタブー視されがちな「女の性欲」について聞く。(後編へ続く)

うかれ女島 (新潮文庫)

花房 観音

新潮社

2020年12月23日 発売

「働きにきた女だと思われた!」 三重に実在する“ヤバい島”を作家が書き留めたわけ

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