1968年(84分)/松竹/2800円(税抜)

 十代の終わり頃に今はなき大井武蔵野館のレイトショーで『落葉とくちづけ』を観て、爽やかな青春映画と思いきや全くの予想外の展開と結末だったことに衝撃を受けた――という話を前回述べた。

 その後、気になって当時できたばかりの恵比寿のTSUTAYAに向かった。何か『落葉~』と似た感じの作品がないか探そうと思ったからだ。ここは、とにかく旧作邦画のレンタルビデオのタイトル数が凄まじかった。

 そして、あった。しかも、ズバリの作品が――。

ADVERTISEMENT

 それが今回取り上げる『小さなスナック』だ。

『落葉とくちづけ』のヴィレッジ・シンガーズと同じく、グループサウンズで人気を博していたパープル・シャドウズの同名ヒット曲を主題歌にした作品である。しかも、監督が斎藤耕一、主演が尾崎奈々&藤岡弘と全く同じ。これは、『落葉~』と同様に「何か」があるに違いない。そう踏んで、借りることにした。

 そして実際に観てみたら、たしかに衝撃的な「何か」のある作品だった。それも、想像の遥か上をいく「何か」が。

 物語は、面倒見の良いマスター(毒蝮三太夫)が経営するスナックを中心に展開される。店に集う昭(藤岡)ら若者たちは、自堕落な毎日を送っていた。そこに現れる謎の美女・美樹(尾崎)。昭は美樹に惹かれ、やがて二人はデートを重ねるようになる。

 九十分弱の上映時間のうち、最初の一時間は淡々と過ぎる。二人が関係を育んでいく様が、斎藤監督らしい淡いタッチの抒情的な映像の中で描かれるのみ。それが、ラスト三十分で大きく動き出す。

 美樹の突然の事故。そして知らされる、美樹が二年前から結婚していたという事実と、美樹を取り巻く逃れようのない悲しい現実。さらに、仲間たちは昭を残して次々と「大人の世界」へと旅立っていく。

 前半から一転して、暗い影の中で過ごす昭の姿が映し出され、それがパープル・シャドウズの歌とあいまって切ない寂寥感が漂うようになる。

 そして、終盤に向かって物語はさらに動く。鬱々と過ごす昭だったが、マスターに励まされ、美樹と向き合う決意をする。凡百の青春映画なら、二人で現実と対峙し、そして結ばれる――となるところだ。

 が、本作はそうではない。昭の積極的な行動が、結果として取り返しのつかない悲劇をもたらすことになる。

 それを伝える画(え)が終盤に一瞬だけ挿入されるのだが、その画はそれまでの美しい映像からは想像もつかない残酷なもの。そのため、こちらの衝撃は尋常ならざるものが。

 一瞬だからこそ際立つ、とてつもない衝撃だった。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売