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「5億円は4回にわけて田中角栄秘書官に渡った」 ロッキード事件・検察の主張の“不自然な点”

『ロッキード』より#1

2021/01/14

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 歴史, 政治, 読書

note

3度目は、密やかな取引には最悪の場所

 すべての現金授受は白昼堂々と行われている。さらに、4度目を除くと、いずれも屋外での授受だ。

 他人の目に触れない場所で、密かに行われるべき行為を、なぜこんな場所で。

 これではまるで、みなさん、目撃者になって! と通行人に向かって叫んでいるようなものではないか。

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 1度目の現場近くには、ダイヤモンドホテルがある。人がまったく通らない場所ではない。

 2度目の公衆電話前では、受け渡しの最中に電話を利用する人が来たらどうするのだろう。

 携帯電話などなかった当時は、公衆電話が至るところに設置されていたし、利用者も多かった。

 そして、3度目は、密やかな取引には最悪の場所ともいえる。

 ようやく4度目に人目のつかない伊藤の自宅で現金を引き渡しているが、最初からそうすればよかったのではないか?

©文藝春秋

 起訴状に記された4度の現金授受のうち、最も不可解なのが3度目の授受だ。74年1月21日午後4時半、ホテルオークラの駐車場で行われたとある。

 この日の午後4時、ホテルオークラ「平安の間」で当時衆議院議長を務めていた前尾繁三郎を「激励する会」が催されていた。自民党宏池会出身の長老である前尾の会だけに、数100人が集まっていた。

見落とされた重大な事実

 伊藤はこの会に出席しており、そのついでに、同ホテルの駐車場に榎本を呼び出して1億2500万円の現金を渡したというのだ。

 ちなみに、駐車場は宴会場の正面にある。

 政治家のパーティともなれば会場周辺には、ハイヤーなどがすし詰め状態で待機しているし、メディアも大勢いたはずだ。

 そんな場所で、参加者の大半が顔を知っている総理大臣の政務秘書官と丸紅専務が、ダンボール箱を車に積み替えている姿など、もはやコメディとしか思えない。

――著者は検察が主張する「3度目の授受の日の榎本の行動」を、実際に車で走って検証したが、あまりの不可解な動きに疑問は膨らむばかりだった。実地検証の詳細は本書を参照していただきたい。そしてさらに、起訴状には重大な事実が見落とされていたのである。