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痛恨だった笠原の死

 4回の現金授受について検察側の主張は、2日間笠原を取り調べて得た供述を基本に組み立てられた。

 そして、1月21日、参議院会館と田中邸を往復したのも、笠原だった。

 笠原の調書では、天候について言及されていない。現金授受を手伝っておきながら、同日の大雪に言及しないのは、不自然だ。

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©文藝春秋

 笠原が生きていれば、雪の問題も、同日の霞が関ランプや護国寺ランプの状況も法廷で証言できただろう。

 したがって、検察側は弁護側の訴えを裏付ける証拠がないと反論。裁判所は、これを認めた。

 そういう意味で、笠原の死は角栄側にとって痛恨だった。

誰も大雪を覚えていないのか

 それにしても、伊藤も榎本も、誰1人として、当日の天候についての供述が検面調書にないのが不可解である。

 4回の現金授受の全てについて、榎本は法廷で否定している。一方の伊藤は、全ては検面調書で供述したとおりだと証言している。

 にもかかわらず、伊藤は当日の大雪について言及していないのである。

 そして、検察が調書作成の際に、この日の大雪を検証しなかったのも不可解である。首都高の記録が破棄されず、笠原が死去していなければ、どうするつもりだったのだろう。

 贈収賄事件においては、現金授受という最重要点を徹底的に裏付けるのは、基本中の基本だ。当日の天候すら確認しないというのは、杜撰と誹(そし)られても致し方ない。

ロッキード

真山 仁

文藝春秋

2021年1月13日 発売